偶には実家に帰って親に顔を見せにいこう
御者との一悶着から約四日かけて漸く、ヴィヴィアンの生まれ故郷であるペインハート公爵領、ラクスという街に到着した。
ペインハート……余り良い思い出とは言えないが、起きてしまった事は何どうすることも出来ない。取り返しなどつかないのだ。
「んーっ、はあ。やっと到着致しましたわ!」
「成る程、ここがラクス。ヴィヴィの話や資料で読んだよりもずっと」
「うわー、綺麗な街だね!」
「確かに綺麗だが、珍しい煉瓦の色だな!」
「確かに見たことのない種類の煉瓦だ。」
客車から降りた皆はラクスの街並みを見て感嘆の声を漏らしている。
建物の壁は殆どが深緑色の煉瓦で構成されておりとても統一感がある。遠目からならきっと森と同化して見えてしまうかもしれない。
それほどまでに統一されており、尚且つ深緑の色なのだ。
「この辺の土はとても希少性の高い鉱物が粉末状になって含まれているのよ!」
「……なら、普通の煉瓦よりも耐久性とか高いんだよな?」
「ええ、そうですわ!」
なら何故市場に流通していないのか、とふと浮かんだ疑問点を尋尋ねると、ヴィヴィアンは簡単な事よ、と一蹴する。
「それを利用したい人が地面からその成分だけ採って行ってしまったのよ。少なくとも周囲の地表を剥がしてももう出てこないわ!」
「……成る程、供給源が地下深くになったのか。」
探索者風の男女や木材を担ぐ大工等が街を歩いておりとても活気付いている。ヴィヴィアン曰く普段はここまでではないらしい。
魔物達の暴走をスタンピードと呼ぶのだが、今回はスタンピード特別需要、否、スタンピード特別供給によるもののようだ。
それもそうだろう、普段は市場に出回りづらい魔獣の素材が出回り、探索者だけが使えていた部分を一般市民が使えるのだから。
街並みを眺めつつ歩くこと約十五分。この世界での一般の宿屋とはかけ離れた、日本にあるような旅館に到着した。
これまでの深緑の煉瓦とはうって変わって此方は完全な木造建築。パッと見の外観だけなら武家屋敷のようだ。
正面玄関入口までの道は石畳を敷き、両脇を綺麗なお辞儀をする使用人達が固める。
建物は和風なのに衣服は洋風なのがとても異世界らしい。ヴィヴィアンの話を推察する限り出てくる料理は中華だ。
衣食住がバラバラ過ぎて土地柄もへったくれも無くなり、この屋敷は混沌としている。お辞儀をする使用人達の間を通って玄関に着く。
「ただいまですわ!」
玄関にヴィヴィアンの大きく快活な声が響いた。