警戒も緩慢も過ぎたるは及ばざるが如し
ヴィヴィアンの実家は帝都を出て約二日間東南東に進んだところにある。それは勿論休まずに進めばの話だ。
そしてそれは殆どといっていいほど叶わない。馬も潰れてしまうし、ましてや突然のアクシデントでも。
「ひぃぃい、賊が出たぁあ!」
いつもよりも朝早く起きたお蔭で客車で寝ていたところを、御者の悲鳴で叩き起こされる。
街道周辺は本来、軍が定期的に見回っているはずなのだが今日は珍しく盗賊が出たらしい。
窓から顔を覗かせると、確かに前方から盗賊風の輩が走ってきている。中には馬に乗る者もいて、それなりに資金のある集団のようだ。
「ん、どうしたんだ?!」
「……おはよう、トリス。盗賊っぽい奴等が前方にいる。」
「な、な、大変な事ではないかね?!皆を起こして臨戦態勢を!」
そう言って皆を起こそうとし始めたトリストラムに、必要ないと告げると何故と聞き返される。
本人にも確認させると、トリストラムも俺の言わんとする事が分かったようで、大人しく座席で転た寝をし始めた。
「す、すまないが少年達、この馬車は一度帝都に戻る!」
「いや、あれは傭兵だぞ?」
「は、え?」
俺もトリストラムも傭兵の紋章が彼らの胸元見えたことを伝えると、彼は否、と言い帝都に戻ると宣言した。
「奴等が傭兵崩れの盗賊だったらどうするんだ!例え傭兵でもあの大所帯で逃げているんだ、何か大きな事が起きているに違いない!」
「……傭兵崩れなら俺達が対象するし、他の何か大事なら街から少し離れた所で降ろしてくれればいい。」
「で、出来るわけ無いだろう?!君等は只の見習い探索者程度じゃないか!」
大声で捲し立てる御者の声に起こされる他のメンバー。俺は溜め息をついて御者に凄んだ。
「峰打ちは難しいが、殺すなら簡単だ。」
一瞬怯んだ御者にさあ、と促すと渋々緩めていたスピードを元に戻しそのまま直進した。
結果的に言えば彼等は盗賊でも山賊でもなく只の傭兵団であった。
すれ違う際に何をそんなに急いでいるのかと問うと、ダンジョンと呼ばれる場所から魔物が溢れ出たらしい。
魔物は門外漢の為、急いで逃げ帰るところだったと話していた。探索者も街に充分居と言うので俺達が到着する頃には片付くと思われる。
「言った通りだろう?」
「……大人げなかった。済まない。」
「んーっ、あれ何かあった?」
唯一御者の声で起きなかったパロミデスは間抜けな声でキョトンとしていた。
俺はそんな様子のパロミデスに呆れて溜め息をつくと、彼は更に首を傾げたのだった。