俺は諸々の発見を、彼女は胸の成長を
「あ、あぶ、ふっ」
「どうしたんだい、お腹空いたのかい?」
クソッ。まともに発声が出来ない。これだけ意思が伝えられないのだ、赤子が泣き喚くのも頷ける。
何を勘違いしたのか断崖絶壁を押し付けてくる少女を手で押しのける。
言葉が分かるようになってから三週間、生後計一ヶ月経って幾つか分かったことがある。
一つ目に、この家?小屋?にはこの少女しか住んでいない。
そもそも彼女は元々精霊という種族らしいが、受肉してしまい不死ではなくなったという。
何かあったのだろう。それを話していた時の彼女は表情に影を落としていた。
二つ目に、俺自身の容姿だ。見た目は殆ど先天性白皮症に酷似しているが、目の虹彩が白い。
純日本人だった俺がここまで外国人らしい顔になっているとは思わなかった。
自分のモノを見るまでは性別が変わったのかと錯覚するほど愛らしい顔立ちだった。
三つ目に、【ステータス表示】は非常に便利だ。最大の発見と言っても良い。
***
Name:レイ Race:人(先祖返り)
Age :0 Sex :男
Lv :1 LExp:0
Job :無し JExp:0
HP : 10/10
MP : 10^8/10^8
SP : 10/10
Ability ▼表示
Skill ▼表示
Bless/Curse ▼表示
Title ▼表示
Condition ▼表示
▷ヘルプ
***
わざわざ声に出さなくとも、頭の中で唱えるだけでPC画面のように表示される。
表示、とある部分も○○を表示と唱えれば詳しいステータスを見る事が出来る。
同様に、ヘルプと唱えれば分からない略語の意味を知ることも出来る。
そして何より見えるのは自分だけだ。少女に盗み見られる事もない。
こういう細々とした気遣いが出来るのならば、もっと大きな気遣いが出来てもおかしくないと思う。
「グクッ、クッ、フッ」
「襁褓を取り替えて欲しいのかな?」
これは正解。空腹と襁褓は同じ声を出し合図しているが、発声練習の声と混ざって今の所正答率は三割程。
「よーし待ってなさい、『清潔』スンスン……うん、臭くない。」
この少女には衛生という概念を教えたい。
一体その魔法はどれほど信じられるというのだ。
幾ら臭いが消えたからといって、襁褓を洗わず付け直すのは衛生面上、看過出来ない。
そう思い悩んでも俺には何も出来ないのだが。
「出すもの出したらお腹も空くだろう。ほら、吸いな?」
そう言って、出もしない母乳を飲ます為に断崖絶壁を口に押し付ける。
お腹も空いていないので捻れば折れる弱い腕で押し返す。
やや残念そうに乱した服を直し、腕を組んで何か考え事を始める。
「赤子が居れば母乳など滝のように出ると思っていたのだが、何故だ。」
それはお前の胸に手を当てて聞いてみろ。乳腺が未発達だからという答えが聞こえるぞ。
「しかし、あの山羊ももう老齢だしな。出なくなったらこの子が死んでしまうぞ……?」
いや、俺は別に死んでも構わない、というかそもそも死んでた筈だからな。
「いや、親元に帰すまで死なすことは出来んな。」
この少女も少女なりに【レイ】やその両親の事を考えてくれているんだな。
「確か母上は、揉まれれば大きくなる、とかなんとか言っていたような……よし、豊胸の魔術でも考えてみるか。」
いや、前言撤回しよう。こいつは胸の事しか考えてない。
人知れず育てようとしている赤ちゃんに呆れられる少女であった。