閑話:本当の自分
記念すべき第五十話はなんと!閑話です。
それは教官を【無盾】に乗せて帰ってきた日の事。
「おや。君かい、うちの娘が連れてきたという新人は?」
「………………あ、はい。」
振り向くとそこには柔和な微笑みの、顔に似合わぬ屈強な肉体をした初老の男性が立っていた。目元等から教官の父親だと推察する。
思わず凝視してしまい返事が遅れた。凝視されることになれているのか、恥ずかしがるどころか寧ろ自慢気に胸を張っている。
「娘がとんだ醜態を晒してしまったな、すまない。そして運んでくれてありがとう、新人君。」
貴族だろうに非もなく頭を下げる物腰の低さに驚いてしまうが、教官を見ればこの親にしてこの子あり、と言わしめる説得力がある。
直ぐに頭を上げてもらった俺は、何か用事があったのか尋ねる。玄関で仁王立ちしていた程なのだから、余程の理由だろうか。
「いやね、あの娘が面白いと言っていたからな、とんだクズ野郎だったら摘まみ出してやろうかと思っていたが、案外普通だったな。」
「……教官は男選びのセンス悪いんですか?」
「んー、あの娘は人をダメにするんだ。たとえ嘘と分かっても甲斐甲斐しく世話をする。ははは、父親としては全く困ったものだよ。」
教官の父と並んで歩きながら【無盾】の上で気持ち良さそうに笑って寝ている教官を見つめる。
幾ら子供とはいえほぼ見ず知らずの俺を泊めてくれているのだ、教官らしいっちゃらしい気がする。……知り合ったのは今日だが。
「うむ。ここで良い。あとは僕がベッドに運ぶとするよ。」
「……本日よりお世話になります。」
「ははは、良いよ。君が大成して娘を娶ってくれれば。」
驚きの一言に思わず返事が返せない。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
「君は僕を見ても何も言わなかった。まあ、言葉は詰まっただろうが、その後すぐに自然体になった。うん、将来有望だね。」
「……買い被りすぎです。」
「ははは、そんなことはないさ。僕の一族にはね、分かるんだよ。相手の強さが目に見えてね。」
そう言うと彼はその大きな手で俺の頭を撫でて言った。
「君は精神が脆い。だが、その強さは本物だ。その小さな体でどれ程の経験を積んだのかは分からない。」
頭から手を離し、教官を抱えるように持ち上げると更に続けた。
「自分を強く持ちなさい、君は君しか居ないのだから。自分を、自分の魂を騙るのだけは止めなさい。僕には今の君は辛そうに見える。」
そう言うと、彼は部屋の扉をパタリと閉めた。
自分を見透かしたような言葉が俺の何かを貫いた。
……これが魂と言うものなのだろうか。
翌朝、話した内容は殆ど抜け落ちていたものの、目覚めは久し振りにスッキリしたものだった。
また二日三日したら新章始まります。
2021/1/21 修正しました。