仲の良い友人は金で買えない
「レイっつったか?」
「……ああ。」
「ちょっと面貸せや。」
連携練習を終えた翌日、教官が軍の用事があるとかで今日一日は自主鍛練になった。入学して早数日で自習である。
銃の整備や体格の変化に合わせて新しく作り直そうかと考えていた矢先、執事のクリスという青年に呼び出された。
呼び出し方が不良の喧嘩前に似たやり取りなのはおいとくとしても、一体何の用事があるのか。
「グロリア様からのご要望でお前に強化魔法と回復魔法の伝授を承った。……ったく、何でお嬢様もこんな奴に。」
「……そう、だったのか。分かった、先ずどうすれば良い?」
《【レイ】は、スキル【強化魔法】、を獲得した》
《【レイ】は、スキル【回復魔法】、を獲得した》
「……お前、上達早すぎやしないか?」
「……スキルを獲得したからな。」
「ああ、そう。っておい、まだ三十分も掛かってないんだぞ?!」
自称神の加護によりスキルレベル上昇は兎も角、スキル獲得までの過程を大幅に省略出来る、なんて言えない。
「……物覚えが良いからな。」
「お前、それでお茶を濁せるなんて思うなよ?常人の何十倍も早いからな、お前。」
訝しげと言うよりも歩く馬糞を見たような奇異な視線を向けられる。
能力値を強化させつつ、切り傷を作っては【小回復】を掛けて創傷を減らしていくのだ、上がらない方がどうかしている。
クリスは口調や態度の割りには面倒見が良く、休憩を除いて半日程練習していると、スキルレベルは二つとも3まで上昇した。
「そういえば、お前のジョブは何なんだ?」
「……【無魔法師】だが。」
「【付与術師】じゃないのか?!……てっきりお嬢様を謀ってるのかと思ってたんだがな……」
「……嘘だとは思わないのか?」
「ああ?んなもんよく見りゃ分かるっつーの。」
俺の詐欺師説には相当な自信があったのか、呆れたような顔をしたクリスは溜め息をついた。
「……そんな熱烈な視線に気付かないとは、俺もまだまだだな。」
「んなっ、お前ほんと、巫山戯けんなよ?!」
「いや、ほんの冗談だ。」
「ったく、掴み所の無え奴だ……」
こんなやり取りをしたのはいつ振りだろうか。
それから暫くの間、クリスをからかうのが教官と俺の間で流行になった。