恥辱もいずれ思い出になる
イギリスのロンドンにあるエリザベス・タワー、通称ビッグ・ベンを見たことはあるだろうか。
俺は前世で一度目にしたことがあるが、建築様式というものに疎く上手く語彙を紡ぐ事が出来なかった。
「推薦書付きならば、私からは何も言うことはありません。では、この書類に記入をして下さい。」
そんなビッグ・ベンに酷似した建物の中にあるのは、国会議事堂等ではなくナントカ予備校が入っている。
職員に渡された書類には氏名や年齢の記入欄の他に、得意な戦闘形態(攻撃、防御、支援)とその方法、射程を選択する欄が書いてある。
攻撃の欄に円を付け、方法の部分は物理と魔法の両方に、射程は中、遠距離を選択する。
「……現在、ボア教官のパーティしか空きが有りません。少々バランスが悪いですが、どうにかなるでしょう。」
職員に案内されて待合室にてボア教官を待つ。
ドアノブを捻ると共に木の軋む音が鳴って扉が開く。
「遅れて済まない。私はグロリア・ボア、呼び方等は気にしない。自由に呼ぶと良い。君が推薦された新人だね?」
島に来た隊長と似たような軍服を身に纏い、汗に濡れた長髪を整えて名前を呼ぶ彼女が教官なのだろう。
「……レイと、申します。」
「うむ、こんなにも若いのに良くできた少年だ。」
「……何故、俺の性別がお分かりになられるので?」
「まあ、簡単に言えば匂いだ。私は他人より目と鼻が利くからな。決して君が臭い訳ではないから安心してくれ。」
何事もなく職員から教官へ身柄が移動したので、職員は退室し教官から今後の方針と目標について聞かされる。
・教官を含めた六人のパーティでの幾つかの依頼達成
・各々の能力の強化、発展
「そして最後に治安の維持。これは帝国軍も力を入れている事だが、辺境の村等を守りきれているかと言われればそれは否だ。」
「……IT革命の有無が原因か。」
「あい、てぃい?」
「いや、何でもない。……です。」
待合室に沈黙が流れる。
思わず堪えきれなくなった教官は声を上げて笑った。
「ふっ、ハハハ!……いや済まない、苦手なら敬語じゃなくていいぞ?君も存外子供らしい所があるのだな。」
「……恐縮です。」
一頻り笑い終えた後、目尻の笑い涙を拭いながら彼女は微笑む。
それから少し話しながら教官に連れられ、自分のパーティメンバー(仮)の待つ部屋に行く。
2020/7/5 修正しました。
2020/12/27 修正しました。