アルバイトは研修期間があった方が良さげだ
「……お名前は?」
「んもう、そんな事いいじゃない。話を続けるわよ。」
彼、いや彼女は名前を名乗りたがらない。いつの間にか背後に回っていた執事によると、漢らしい名前で好きじゃないらしい。
話の内容は、と言ってもギルドを与る者としての建前を多く並べ立てた位で、本音では自立までの保証が出来ないから、という。
「傭兵って、どこまでいっても信用第一なの。その人に付加価値が無くてうだつの上がらない傭兵って、一定数居るものなのよ。」
「その上仕事は探索者と違い、ギルドの斡旋は無く、自ら獲りに行くか依頼されるかですからな。」
「……成る程。何らかの方法で、信用を得る。話はそれから、という事で良いですか?」
「ええ、その理解で正解だわ。因みに私は探索者ギルドがお薦めよ。戦闘能力向上に効果的だわ。」
「僭越ながら、私は商業ギルドが宜しいかと。交渉術の早期取得に良いです。」
二人の案は結局、俺が傭兵ギルドに将来加入すると仮定した話だ。
となると、俺としては商業ギルドよりも探索者ギルドの方が、紹介状を持っている分安心感がある。
「……それじゃあ、俺は探索者ギルドに、行かせて頂きます。」
先に社会的信用を得る為、俺は探索者ギルドに向かった。
「加入申込みですか?」
「紹介状を持ってきました。」
「……分かりました、一度上司に聞いてみます。」
実は傭兵ギルドの裏にあった探索者ギルドに入ると、総務課とある窓口で受付される。
受付嬢は訝しげな表情をしながら奥に消えていく。例え疑わしくてもそれを顔に出しちゃ駄目だろうに。
戻ってきた受付嬢に連れて行かれギルドマスターの部屋に着く。
「お、来たか。事務処理をしながらで済まないが聞いてくれ。」
俺がソファに座ると単刀直入に話が進んでいく。
「まず、書いてある事が事実なら偉業だ。」
「……ありがとうございます。」
「だが同時に、その年齢ならギルド法規定に基づいて、未成年者ギルド予備校に連れて行かにゃならん。俺らなら探索者だ。」
「……学校のようなものか。死亡率低下の為か?」
「まあそれもあるにはあるが、パーティかソロかで総依頼成功率が変わるからな。モノによってソロで受けられないからな。」
「……ギルド自体の信用保持の為か。」
「俺らは慈善事業でやってるんじゃねえ。何らかの理由で、体張るしか食い扶持がねぇからやってるだけだからな。」
「……それが法規定なら異論はない。」
話が決まると、ギルドマスターは何かの書面を引き出しから引っ張り出し、ささっと書き終えると封筒に入れて投げ渡される。
「場所は反対側の商業区にある時計台のあるデカイ建物だ。」
斯くして、就職先が決まった。尚、暫くは研修期間のようだ。
これで第五章終了になります。
次回登場人物紹介を挟み、次章始まりまする。