無意識に苛々している人は他人に当たりが強い
ナイアガラの大瀑布もかくやという巨大な城壁に囲まれた首都が、馬車から見渡せる。
帝都エンペイル。戸籍等の管理は行われていない為、人口は約二万人~三万人と幅が大きく開いているが、どちらにせよ大都市だ。
中央部に聳え立つは国家元首の住まう城。その周辺に貴族の住まう貴族街、残りは北南東西を交互に商業区と住宅区に分けられる。
街道に馬車が列を成し、城門では御者が事業者税金を支払ってから中に入っていく。
俺の乗っているこの馬車も同様に待っている。身を乗り出す程ではないけれど、旅行に行ったことがない事もあり内心心が躍っている。
「んー?あれあれ、レイ君もしかしてワクワクしてる?」
「……ああ。」
「ただのマセガキかと思ってたけど、なぁんだ、ふぅん?」
態々茶々を入れにくるセシリアを適当にあしらい城壁を見る。
どんな理由かはしらないが、錬金術により石材と石材の繋ぎ目を見えづらくされている。
遠目からでも分かる程に腕が悪い。あれならば俺がやった方が錬成の痕跡が見えない。まあ、弾丸の生成で鍛えられただけだが。
城門を潜ると、直ぐに馬車を停めるロータリーのような場所に着き、全額アーサー持ちで支払いを終えた。
罪悪感が湧かない訳ではないが、今の手持ちは0。心だけで謝罪して別れの挨拶を済ませる。
「今回は世話になった。」
「まあまあ、たかが二、三日じゃない。なんならずっと居ても良いのよ?」
「セシリア、レイ君にも予定とか計画とかあるんだよ?……でもまだ一緒にいて良いんだよ?」
「いや、余り長く一緒に居ると目的を見失ってしまう。……アーサーにも礼を言っておいてくれ。」
アーサーは今、皇帝との謁見の許諾を貰いに城まで走っている。
俺を警戒するならば最後まで警戒すべきものを。詰めが甘い。
「……うん。アーサーにも伝えとくよ。」
「済まない、セシリア。」
「お、何気名前をちゃんと呼んでくれたのって初めてじゃない?デレ期?デレ期かな?……ちょ、何か反応してよ?」
セシリアの訳の分からない茶化しを無視し、俺は四人に頭を下げて【無盾】の階段に乗り、大通りへ向かった。
「ごめん、遅くなった……レイは?」
「おかえりー。レイは多分傭兵か探索者のギルドに行ったよ。礼を言っといてくれってさ。ったく、子供らしくないよな。」
「そうか……【神の童】、あり得なくないか。」
「レイが礼をって……ププ」
「何をつまらない事を言ってるんだ。」
「レイとアーサー、私に当たり強くない?」