アーサー・ペインハートの考察
「ねえレイ君。」
「……」
「ね、ねえアーサー?」
「……」
「もう、何で一晩でこんなに空気悪くなるのかなぁ?!」
馬車内部は昨夜の失態のせいもあり非常に重い空気に包まれている。
押し潰されそうな空気の中、セシリアは話を振ってみるも相手が悪くあえなく撃沈となる。
アーサーはずっと、昨夜のレイの言動について考えていた。
(まるで従軍経験のあるような口振りだった。)
主力部隊やら上官やら、更には戦果などどれも戦争にまつわる話でしか耳にしない言葉ばかり。
(ここ十数年で戦争が起きたなどと言うのは聞いていない。小さな衝突などはあったが、話にあうような戦争は……)
一番最後の大きな戦争は今から約二十数年前。そんな年にこのレイという少年はまだ生まれてやしないのだ。
(ならば、『神の童』か?)
そうだとしたら年の割に似合わない口調なのは納得がいく。
(だとしても、あの言い方から察するに、人質が殺されたというような内容だった。)
例えば、国家間の戦争ならばそれなりの立場にいる人間が人質とされた場合、余程の事がない限り身代金を要求するだけ。
国内での場合は皇帝またはその代理が立ち会いの下、一般人に被害の無いように行われる。人質など、終戦後に身代金取引されるだけ。
(しかし、大切な人々の命によって支払われた、のなら人質等は殺されてしまったのだろうが。)
そんな非道な戦争なんてこの国、まして近隣諸国ても聞いたことが無い。
(それじゃあまるで粛清されたようじゃないか。)
粛清は基本的に実力至上主義が強いこの帝国では有り得ない。戦意喪失させるくらいなら、纏めて叩き潰すのが帝国流だ。
ふと、顔を上げて向かいに座るレイを見る。右手で頭を抱えて俯いている。僅かに震える手は決して、馬車の振動からくるものではない。
「ねぇ、アーサー。」
「へ?あ、ごめん聞いてなかった。」
「まだ何も話せてないし……もう、起きてるならちゃんと返事してよね?」
「以後気をつけます。」
「うん、宜しい。」
セシリアを尻目にレイを見る。
(レイ、君はいったい何者なんだ?)