感傷の吐露
ハミルトンの襲撃未遂後の夜は、野営をする事になってしまった。
小規模の魔物の群れが近付いて来たので、少し遠回りをしたのだから無理もない。
夕飯も食べ終わると戦えないフェリスと御者を除いた五人の内、二人ずつ交代で見張りをして夜の番をする事になった。
一番目はアーサーとセシリア、二番目はセシリアとルト、三番目はルトとミリアーナ、四番目はミリアーナと俺、五番目は俺とアーサー。
夜が明けるまでこの流れを続けるのだ。
「レイさん、一つ聞いても良いですか?」
「……ものによるが、概ね大丈夫だ。」
周囲を警戒していると、沈黙に堪えきれなくなったのかミリアーナが質問をしたいと申し出た。
「何であの人を殺さなければならなかったのですか?」
「逆に問うが、何故あの場で殺さない選択肢が出てくる?」
全く理解が出来ないというような顔をするミリアーナ。
「あの場で殺さなければ、ミリアーナやフェリスが死んでいたはずだが、それでもその選択肢が出てくるのか?」
あの時アーサーは馬車を停めようとした。そうすれば全員が交戦出来ていたが、俺達が狭い中での防戦に対し相手は広い外での攻戦だ。
力の差がなければ確実に殺られていた。
「仲間が殺されそうな時に、人殺しだからと躊躇するのか?きっとその時間が仲間を葬る事になる。」
「で、でも人間ですよ?!」
「動物なら良いのか?踏み潰すのが蟻なら良くて、人間なら駄目なのか?」
「でも、ミリアは、ミリアは……」
「理解出来なくて良い、頭の隅には置いておいてくれ。アーサーのやり方じゃあいつか破綻する。」
頭を抱えて思い悩むミリアーナの両肩を掴んで向かせ、じっとミリアーナの目を見て言う。
「そんな時に見方を変えられるのは、まだ純粋無垢なミリアーナだけだ。」
「……ご、ごめんなさいッ!」
ミリアーナは俺の手を振りほどき、天幕でアーサーと入れ替わる。
「ミリアに何をした?」
「アーサー、お前の性格の危うさについて話をしていた。」
アーサーは風に揺れる天幕の布の奥を見やり、俺を睨み付ける。
「そんな様子じゃあなかったが?」
「お前は、俺の知り合いに似てる。」
「何の話だ?」
そうだ、全くアーサーの聞きたい事とは違う話だ。理解していても口から次々と溢れ出る。
「あいつも正義感の強い奴だった。上官を突っぱねて一人で突っ込んで行って、大きな戦果をもたらした。」
「なら、良いじゃないか。」
「その代償は自軍主力部隊の八割と……大切な人々の命によって支払われた。その後、あいつは責任から心身を病んで首を括った。」
深呼吸をして心を落ち着かせる。無駄な事は話さなくて良いんだ。
「無駄話をした。忘れてくれ。」
二人の間を沈黙が支配したまま日は昇り、野営は終了を迎えた。