自己紹介は一世一代の賭けに似た緊張感がある
「と、言うわけでついてくる事になったレイ君です!」
「……宜しく、お願い、します。」
「うん、此方こそ宜しく、レイ。」
俺とフェリスは宿の内装の修繕をした後、女将さんにお礼して逃げた時のように空を渡り歩いて、門の方向までやってきた。
流石に時間が掛かりすぎだと思ったのか、この男が他の仲間と共に捜しに行こうとしていた矢先に俺達は到着したのだ。
まずは俺達が宙に浮いている事に驚き、次に俺が手を繋いで隣に居ることに驚き、最後に下から修道服の中が見える可能性に驚いていた。
全くの計算外だったがフェリスには悪い事をした。後で何かお詫びをせねばなるまい。
そして事の顛末を彼等が移動する馬車に乗り込んでから話し始め、今現在に至る。
出された手と握手すると、男は少し驚いたような顔をして目を見開いた。何か変な握手だっただろうか。
「……ああ!そうだ、まだ自己紹介してなかったね。俺の名前はアーサー・ペインハート。アーサーって呼んでくれ。」
優しげな笑みで俺を見つめる。そんなにまじまじと見られても男同士の見つめあいにしかならない。
「じゃあ次は私ね。私はセシリア・ユーグラシル、気軽にセシリアお姉ちゃんって呼んでね?」
「……流石に、無理。」
金髪碧眼の、少し耳の尖った少女がありもしない眼鏡を上げる動作をしながらそう言った。
精神年齢は既に大人なのだから恥ずかしがらないのは無理だろう。
「わ、私はミリアーナと申しますです。呼び方は何でも良いです!」
「……わかった。」
紫髪に蒼い瞳の俺より少し大きいくらいの少女が、帽子を深く被りながらそう言った。
意味もなく避けられているような気もしないわけではないが、初対面で何か間違いを犯しただろうか。
「……ルト。宜しく。」
「……宜しく。」
真っ白な鎧兜の中から女性らしき声が聞こえた。なにやら近しいものを感じてしまう。
一通り自己紹介も終わり、一つ気になっていたことをフェリスに尋ねる。
「……帯剣を制限する法はこの国には無いのか?」
「うーん、囚人とかは駄目だけど他は無いかな。魔物とか出てきたら対処のしようもなくなっちゃうし。」
成る程、それもそうだなと頷く。農民にも生活があるのだから、事件が起きてからでは遅いということだろう。
そして更に気になったことを尋ねてみる。
「……この馬車は何処に向かっているんだ?」
「帝都エンペイルだよ。アーサー君が陛下から魔物退治の命を受けて、あの港町まで行ったの。あれ、言ってなかったっけ?」
「……ああ、初耳だ。」