悪漢とは言えど、誰にでも人生はあるものだ
「……知り合いか?」
「そうだぜぇ嬢ちゃん。ちっと前だが、俺の率いてた部下をバッタバッタと斬り殺してってよぉ。俺はどうにか逃がしてくれたんだが、今ここに残ってる奴等以外は皆逝っちまってんだよな。」
表情に影を落とすのは盗賊団『鉄屑の錆刃』頭領、ハミルトン。
彼は自嘲気味にその話をしながら、毒々しい短剣を手の内で転がしている。
「ほら、見てみろよ。」
「酷い火傷だな……裂傷、いや、刺傷がその下にあるな。」
「ほぉ、嬢ちゃん良く分かったなぁ。」
ハミルトンは臍の左横の大火傷を、痛みを思い出すように撫でて話を続ける。
「焼き塞ぐのに何度気絶しかけたことか。こんな身分だ、まともな治療は望めねぇ。」
「そんなの、自業自得じゃないですか!」
「あぁ、んなこたぁ俺だってなよぉーく理解してるさ。」
だが、と続けてまだ話を続ける。
「そんな事はどうでもいい。例えクズでも俺には立派な部下だ。怨みを晴らすのはそんな奴等のためだ。」
本人に対して立ち向かうのは難しい。晴らす前に殺される。
「だから、賊は賊らしい方法で怨みを晴らす。嬢ちゃんだけなら逃げて良いぜ、怨みは無ぇからな。勇者サマを呼ぶならそれでも構わねぇ。報復なんかしやし無ぇからよ。」
確かに自業自得の逆怨みだ。だが、それでも怨みは怨みだ。
「……まあ、だからってこの人を置いては行かれないな。」
「そうか。じゃあ、しょうがねぇな。この女と共に死ね。」
ハミルトンは意外にも俊敏な動きでフェリスに近づき、しかしその動きにフェリスは反応出来ずに棒立ちになっている。
ハミルトンはフェリスの背後に回り、間接的に仇を討たんと凶刃を振り下ろした。
「ガハッ……ッ!」
しかしそれはレイによってハミルトンの胸部と手首に撃ち込まれた二発の銃弾によって遮られる。
「【無盾】ほら、乗って!」
「う、うん!」
何が起こったのかは助けられたフェリス本人も理解出来ておらず、ましてや殆ど関わってこなかったハミルトンの部下が解る筈もない。
故に、この一瞬の空白で二人に逃げられた事が理解出来ないのだ。
レイは次々に【無盾】を宙に作り、一足跳びで行き路地から出て逃げていく。
「かっ、頭ぁ!」
「俺ぁいい!一番始めに捕まえた奴はガキを好きにしていい権利をやる、さっさと行け!」