暫く多くの人が居ない所に居ると人混みで吐き気は免れない
「魔樹の果実、新鮮だよー!お子さんのおやつにどうだい?」
「安いよ安いよー!針蛸の足が今なら1000ペクニアだよー!」
「飛蛙はいかがですかー?10匹合わせて100ペクニアですよー!」
この港町はどうやら貿易港のようで、非常に賑わいを見せている。
前世も含めてここ十何年も人通りを通っていない上に、気を抜けば前後不覚に陥る程の人混みは、俺を酷く苦しめる。
胃がキリキリとし、喉に酸っぱいものが昇る。
例え吐くにしても、この往来では駄目だ。路地裏に回らなければ。そう考えたのも束の間の事。
よくよく考えてみれば、どうやって路地裏へ回れるのか。
こうなればいっそ出そうなものをすべて魔力で覆い、人混みを抜けた先で捨てれば良いか。
実行しようとした矢先、体がフワリと軽くなり強い吐き気も治まってくる。
「君、大丈夫?」
「……大丈夫だ、済まない。」
「いいって、困った時はお互い様だよ?」
そう声を掛け、吐き気を治めてくれたのは修道服を着た若い女性だった。
恐らく体が軽くなったように感じたのは、彼女が使っただろう魔法が関係しているのだろう。
「どうしたんだ、フェリス?」
「この子が人酔いしてたみたいだったから、人通りがもう少し疎らな所に連れて行こうと思って。」
彼女、フェリスに声を掛けたのは何故かキラキラしている、アジア系の美丈夫。
あまり機能的で無さそうな装備の青年はこの港町から出るようで、フェリスの他にも仲間がいるようだった。
「いや、もう」
「そうか。じゃあ俺達は先に門で待ってるけど、護衛は要るか?」
「ううん、大丈夫。」
俺はもう人混みを避ける方法は思い付いたので、大丈夫だと伝えようとするも、この人等は人の話を全く聞こうとしない。
わざわざ助けて貰ったにも関わらず、ここで手を振り払うのも礼を失するだろう。
俺は為す術もなく、フェリスに手を引かれて来た道を戻るように港の方角へつれていかれ始めた。