閑話:元奴隷の独り言
俺の名前はダリス、35歳独身の傭兵だ。
訳あって今は奴隷の身分に堕ちて、先日解放された。
解放してくれた坊主は恩を着せて利用しようなどとは考えて無いらしいが、少なくとも俺や元奴隷仲間は恩を感じている。
だから俺は今坊主の修繕した船に乗っている訳だが、一つ納得のいかない事がある。
いや、帰る手段まで用意して貰っておいて、今更不満などを抱く程強欲ではない。
それにこれは俺がただ単に抱いている感情なだけで、現役を過ぎたオッサンが自制が出来ないわけでもない。
「けど、モテすぎやしないか坊主。」
分かってはいるのだ。確かに坊主と俺では全く持って違う。
まず若さが違う。これは覆しようのない事実だ。どうすることもできない。
二つ目に坊主と俺の顔の出来だ。今はまだ幼い中性的な顔立ちだが、大人になればきっと凛々しくなるだろう。
それに比べて俺はどうだ。別に不細工な訳ではないが、若い頃にヘマした時の古傷が残り凶悪な面構えをしている。
三つ目はやはり清潔感だろうか。本当に島暮らしかと疑う程に清潔な小綺麗な格好の坊主と、粗野で暫く湯浴みも出来てない俺。
「……そう言うなら、助けてくれ。」
「俺が一番交渉事が上手いからってここに居んのに、回りから反感買って下ろされちまうだろ?」
「そうよ、レイ君。この人自分の顔が怖いのを良いことに、私達に好き勝手するのよ?」
「してねーよ!有りもしないことを勝手に吹き込むんじゃねぇ!」
幾ら歴然の差とは言え、ここまで普通傾くのだろうか。
言っちゃ悪いが、坊主はあまり強そうには見えない。
確かに線が細くても強い奴はいる。俺の若い頃がそうだった。
だが、そんな実は強いなんていう雰囲気も無い。
筋肉のつきも体の動かし方も、魔法周りにはそれなりに強いようだが、幾らなんでも隙だらけだ。
「なあ、本当にお前強いのか?」
「……近距離ではまともに戦えないだろうな。遠距離、超遠距離からなら、何とかなる。それも、この体じゃあ無理だがな。」
「お前は魔法使いなのか?弓使いなのか?」
気になって聞いてみるが、間の悪い事に水面から鮫のような魔物が飛び出し、甲板に乗り上げて来る。
舌打ちしつつ、レイから借りた帝国軍の剣を抜いて応戦しようと走り出すと、突然破裂音が鳴り鮫の頭部が砕け散る。
音の源を探すと、煙を上げるモノを構えたレイがいた。
「見ての通り、【無魔法師】の狙撃手だ。ほら、次も来るぞ。」
次々にやって来る魔物を黙々と殺っていくレイ。
俺は驚きで返す言葉を失った。