状況の把握には時間が必要になる
「レイの旦那、いや、ここはあえてレイと呼び捨てにするぞ。」
「……どうした、藪から棒に。」
真剣な面持ちの男は、俺の目を見てゆっくりと噛み締めるように話し始めた。
「コレを着ければ例え王族だろうと、【奴隷】という職業になる。それも強制的にだ。」
「……そんなに強制的があるのか。」
「ああ。そして、【奴隷】には必ず『主人』がいる。が、これはジョブじゃない。」
「……そうか。それが何かあったのか?」
「言っただろう?必ずなんだ。【奴隷】はコレが着いているから【奴隷】なんだ。」
ここまで話して分からないか?という顔をされるが、何分人間社会にはまだまだ疎い。
「なら『主人』は?『主人』は何があることで『主人』となるのか。」
「……【奴隷】の定義が、その首輪なのはわかった。ただ、話の意図が分からない。」
「『主人』は指示をする事だ。『主人』の定まってない【奴隷】に指示する事で『主人』となる。」
「……は?」
話している事が漸く飲み込めてきた。
成る程、『主人』の定義は【奴隷】に指示を出すこと。つまり、彼等は元奴隷じゃない。
今は、俺に隷属しているのだ。
「……解放するには、どうすればいい?」
「普通のジョブなら兎も角、強制されたものだからな。順当な所で、コレを壊してからジョブを変えるとかだ。」
「……成る程、善は急げ、だ。解放されたい奴は全て呼んで来てくれ。」
彼は俺の意図を理解して、すぐに船内へ向かって行った。
男が呼び終えた頃にはそう時間もかからずに、甲板に奴隷達が集まった。
「……話はあの男から、聞いているだろう。解放するだけだ、今後は自分で考えて動いてくれ。」
「解放、本当に出来るわけ?コレだって一応魔法具なのよ、そんな簡単に壊れるほど柔じゃないと思うんだけど?」
少女の言っていることは全くもってその通りだ。これは物理的に力業でどうこうできる程なら、とっくに奴隷は消え去っている。
「……腕力じゃない、魔力を使うんだ。」
「魔力?そんなのでどうするっていうの?」
「……魔力を大量に入れて、魔法式をショートさせる。そうすれば機能は停止するはずだ。」
「ショート……?で、でも機能を停止させるにしたってどこにそんな膨大な魔力があるのよ?!」
「……俺が、呼び出させたんだ、俺以外に誰がいる?」
この魔法具とやらは恐らく、装着者から吸収した魔力で基本的に動いている。
そして多少の魔法が着弾した程度で壊れないなら、常に余裕を持って稼働していると考えて差し支えないだろう。
しかし多少どころじゃない魔力を流せば、豆電球のフィラメントが千切れるように、この魔法具も使えなくなる。