感覚の相違は時に不和を生むかもしれない
「あ、レイ兄お帰りー!あいた!」
「こら、レイ様でしょう?お帰りなさいませ。」
「……様は要らない。状況は?」
船へ戻ると大体の人が甲板でお茶を飲んでいる。女性が言うには頼んだ事は全て終えたそうだ。
「それでレイさ……ん、この臭いは何の臭いでしょうか?」
「……あぁ。旧知の魔物に、舐められた。【消臭】……これで、いいか。」
「窮地?!お身体は大丈夫なのですか?!」
女性の声を聞いて他の元奴隷達も何だ何だと野次馬している。何故驚いているんだろうか。
リーラの話では、人語を操る魔物も存在するらしいが珍しいのだろうか。……いや、言い方が悪いな。
「……知り合いの、魔物だ。」
「そうでしたか……はあ、良かった。」
近くにいた少年が野次馬の彼等に何でもないと伝えると、渋々といった風ではあったが戻っていった。
「見ての通り残りはこの帆だけなのですが、男衆でも力が足りず降ろせません。レイ様、すみません!レイさんのお力のをお借りしたいのですが……?」
「……わかった。あと、もう無理に直さなくていい。好きなように、呼んでくれ。伝達は頼む。」
「ッ、そうですか、ありがとうございます!」
《【レイ】は、スキル【染色】を獲得した》
《【レイ】は、スキル【裁縫】を獲得した》
船に関する法律が帝国にあるのかを元奴隷達に尋ね周り、それから帆を作り直した。
帆に描かれる紋章は国や商人などの組織を表すものでなければならないらしい。
世界の国旗を尋ねてみても、国旗以前にまともな教養のある大人が居なかった。
そこで活躍したのが、あの勘違い少女だった。ちゃんとは聞いてないが、どこかの良家の出らしい。
お家の話は一切触れずに国旗の話を聞き出して、結局のところ無地が一番ということだった。
しかし実際に始めてみると、脱色により生地が傷んで所々穴が空いてしまった。
仕方無く飛竜の翼膜を裁断して、新しく?獲得した【裁縫】スキルをフル活用する。
継ぎ接ぎだらけの帆になってしまったが、強度は前の帆よりも遥かに高いものとなっている。
「旦那ぁ完成ですかい、ってうおぉ、もう取り付けまで終わっちまったんすね。」
「……あぁ。もうすぐ出発する。」
皆が張られた帆を見て感心している最中、俺は別の事を考えて、同時に尋ねてみた。
「……その首輪は、奴隷の証か?」
「ああ、コレですかい?【隷属輪】っつー魔法具ですね。着用者は鍵の所有者に【隷属化】する、着ける場所によってサイズが変わるとか、いろんな効果があって、奴隷には着用義務があるんですよ。」
「……もう奴隷じゃ無いのに、着ける意味はあるのか?」
俺がそう言うと、虚を突かれたような顔をして驚いていた。おかしな事は言ってなかったと思うが。