まず疑う事は用心深くて良いが過ぎれば迷惑になる
この状況での注意喚起は、どう聞いても恫喝にしか聞こえない。全く、何をしてるんだか。
だからと言って、それをすぐさま撤回出来るほど、外は彼等にとって安全とは言えないのも確かだ。
少女がまだ息している事を伝えると、俺は準備を整えて厨房へ向かう。
彼等をどうしようかはまだ決めかねているが、このまま放置して死なれるのは寝覚めが悪い。
まずは食事から、ということだ。
幸い、俺は【調理】スキルは割と高めだ。余程傷んだ食材でなければ、味と栄養の保証は出来る。
蔵の中には調味料と香辛料が数種類ずつ有り、リーラとの食生活よりも豊かになりそうだ。
どれくらいの間食べてないのかが分からない。あまり味の濃い物より味が薄くて暖かい物が良いか。
まずは蔵か固い干し肉を取り出し、お湯に浸けてゆっくり解していく。
塩気が抜けるまでの合間に人参と小松菜、腐っていない事を確認した牛乳を探し出す。
ある程度塩気が抜けたことを確認したら、ナイフを包丁へと変えて肉と野菜を適当に刻む。
人参を少し炒め、鍋に牛乳と具と少しの塩水と途中で見つけた薄力粉を入れて、ある程度煮立たせる。
「……病院食よりは濃いか。」
ちょっと塩分の強い、比較的健康的なシチューが完成した。
寸胴を持って行った時は驚かれたが、皿に移してパンを添えるとパクパク食べた。
よほど何も食べてなかったのか、それとも文化的な食生活をしていなかったのか。
俺が言えた事ではないが、もっと人間らしい生活を送るべきだと思う。
しかし全く警戒しないものだ。普通毒が無いか確かめるまで、食べようとは思わないだろうに。
俺が彼等を毒殺するメリットが無いと知ってか、ただの能天気かは別としてもだ。
ただ、一人だけシチューとパンを口にしない者も居る。絞め落とした少女だ。
彼女はじっとこちらを睨み付けて、俺の出方を窺っている風だ。一番まともなのは彼女だったか。
「アンタ、私達に何をさせるつもり?」
「………別に、何も。」
「嘘ね。何の魂胆も無くて奴隷の私達に施しを与えるなんて有り得ないもの。」
「……本当に、何も。」
「そんなの嘘っぱちよ!アンタなんか私達皆で一斉に掛かれば殺せるんだから!」
この少女は一体俺に何を指示させたいのだろうか。
俺が何かさせるとか言ったそばから、俺を殺せると曰う。
それなら結局、最後は殺そうとしてるじゃないか。
彼女の思惑は全く分からず終いだが、思い切って手伝いを頼む事にする。
「……じゃあ、船の、修理を、頼む。」
「船?そんなはずは……ハハン、分かったわよ。さては【フネ】って何かの隠語ね?!」
彼女は一体俺に何を指示して欲しいんだろうか。