喪失感
錬成陣に大量の魔力を流し込む。
中心に寝かせたリーラは静かに遅く脈拍を刻む。
「【錬成】」
心臓の鼓動が五月蠅い。
自分の呼吸音が姦しい。
不安と焦燥が邪魔臭い。
練習していない試してすらいない事態に自然と全身が力む。
流し込まれた魔力と錬成陣が反応して弱々しく発光する。
駄目だ、魔力が足りない。
俺は更に魔力を流し込む。
心を現すように錬成陣の光が安定しない。
どこかで引っ掛かったような感覚を掴む。
リーラの精霊としての魔力と俺の人間としての魔力が反発しているようだ。
リーラから少しずつ魔力を得て自分の魔力を融和させる。
錬成陣の光量が急激に増えて安定し世界が光で包まれていく。
ドロリとリーラの肉体が溶け出して収縮する。
段々とリーラだった液体が固体へと変わり、正多面体にランダムに移ろう。
【賢者の石】は完成した。次はリーラの肉体と魂の再構築だ。
残り残った最後の絞り滓のような魔力を再度錬成陣に流す。
「クソッ、まだ足りないか!」
光が弱い。乾いた雑巾を絞るように己を犠牲に魔力にする。
血液が減り始めて手が震える。
腹部に激痛が走り数少ない血液を吐く。
割れた奥歯から滲み出る鉄の味が無くなる。
石の冷たさや全身の感覚が無くなる。
錬成している時特有の臭いが消える。
空気の流れる音が聞こえなくなる。
錬成陣に輝きが戻り視界は闇に包まれる。
今はもう第六感とも言うべき魔力の感覚だけを頼りに現実を把握する。
石を中心に魔力が人の形を取り始める。
「やった……ッな、なんだ?!」
融和した筈の魔力が弾ける。否、拒絶される。
急速に取り戻していく視覚聴覚嗅覚味覚触覚五臓六腑血液、そして容量を遥かに超える魔力。
煌々と輝いていた輝きは、おどろおどろしい昏い光へと替わっている。
空気の流れは先程とは打って変わってしんと凪ぐ。
濃密な魔力の匂いが空間を満たす。
半透明の石は光沢を帯びた金へと姿を変えて急速に熱を帯びる。
割れた筈の奥歯が元に戻っている。
中身が急速に再生する違和感が襲う。
今までにないほどに血が滾る。
「なあ、おい、嘘だろ?なあ?!」
手には幾つかの正多面体に姿を変える小さな金塊。
小屋の中にはじぶんただひとり。
「あ、ああッ、ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
島には独りの咆哮が響く。
その日、俺はまた大事な人を喪った。
これで第一部完結、と言ったところです。
戦闘シーン、むずいっすね。
登場人物紹介を挟み、少し(一週間くらい)時間を置いて次章というかたちになります。