決め台詞は他人に聞かれると恥ずかしい
お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません。
では、どぞー。
「……」
「めんどくさ。」
マフラーを巻き直しながら男が呆れたふうに呟いた。
「何なんすか。同情して欲しいんすか?それともそのくらいって笑い飛ばしゃ良いんすか?」
「……」
話しかけるうちに、通り越した筈の怒りにスイッチが入る。
「呼び出しといてだんまりは無いっすよ。深くフード被っちゃって、悲劇のヒロインアピールっすか。」
「……」
否定も肯定もしない相手にイライラが募る。
「だいたい当て付けがましいんすよ。人払いまでしてこんなとこって。」
「……」
貧乏揺すりも始めた男のボルテージは最高潮まで到達している。ここまでくればもう大丈夫だ。
「本当に、いい加減にしろやクソが!」
男は座り込んだ相手の頸椎を思い切り蹴り飛ばす。
この男は頭に血が上りやすい。その上すぐに手を出して無関係な人間だろうがなんだろうが当たり散らす。
憤怒に身を任せて周囲の状況を見ることができなくなり、普段は目端がきき勘の鋭い面影はもうそこにはない。
「何、がァッ──」
頸椎をへし折るどころか蹴飛ばされた頭は俺に良く似せたマネキンのもの。
吹っ飛んだ頭は壁や床を跳ねて男の足下へ転がる。その衝撃で数種類の薬液が混ざりあい高圧高温のガスへと変化。
ガスは急激に膨張し強い衝撃波や周囲への破壊を伴って男を襲った。
爆ぜた頭に込められた細かな金属片は更に男の全身を傷付けて、飛び散った血と肉の焦げた劣悪な臭いが充満する。
「──ッ、ぐぁァアアぁア、痛ッづぅあァンの糞野郎がァ!」
「あれほどの爆発を受けてもまだ生きているのか。」
爆音に鼓膜を破られ焼け爛れた両手で顔を覆い激痛に悶える、まさに満身創痍。
「あ゛えあえぇ?!」
「お前が一番よく分かってるんじゃないのか?」
口に銃口を突っ込むと男は誰何するように叫ぶ。一蹴したとて聞こえている筈もない。
「お前は最期まで面倒な奴だな、カスパール。」
身を震わせるような風が窓から流れる。お陰で目が覚めた。
「格好つけすぎだな、俺は。」
きっと俺の顔は今ひどい形相なのだろう。二人の少女は怯えた表情で俺を見つめていた。
「かす」
「ぱーる?」
「ああ。……えと、おはよう、か?」
カスパールの名前を呟く二人から、自分が寝言まで口走っていたことを知る。
「起きてた。」
「怖かった。」
「恥っず。お前の首も怖いからな?」