マフィアも貴族もナメられたら終わり
遅うなりやした。どぞー。
「少し良いか?」
「あ、すみません。何でしょう?」
イスカンダルに呼ばれ上体を起こす。四肢に力は入るがまだ若干重く感じる。
「今の状況は説明できるか?」
「少女二人を助け、中の検分をしていた。魔術式に仕掛けられた罠に嵌まって、あなたを突き飛ばして【召喚術】の生け贄になった……くらいか。」
言われた通りに説明をするが、彼はいつの間にか用意していた椅子に座りながら俺を睨んでいる。
「粗方そんなところだが、まだ足りない。」
足りないだろうか。いや、あえて減らしているものもある。例えば少女二人の種族だ。
「少女の片方は樹人、もう片方は断首鬼だったな。」
「そうか、それなら特に問題はない。……それだけか?」
種族の差別思想を考えて言わなかったが特に問題はないらしい。
そして、それだけかと問われれば答えはNOだ。ラプラスの事がある。
予め結ばれていた契約によれば万が一召喚されてしまった場合、その魔物や魔獣は国へ管理を委ねられる筈だ。
その場合ただの魔物や魔獣なら、屠殺されて終わる話だがこいつは下手に決められない。
ただでさえ予想外の悪魔が召喚されたというのに使い方によっては大惨事になる。
イスカンダルも見えていない素振りではあったが、何か隠している程度には察している様子だ。
「……あくまで仮定の話です。」
「ほう、何だ?」
「この世界の全てを知れるとしたら、あなたは何をしますか?」
「何についての全てだ?」
「いわゆる真理というやつです。魔法や魔術だけじゃない、過去も未来も現在も何もかもを、知ることができるとすれば。」
目をつむり、考えること凡そ数秒。目を開いた彼はポツポツと呟いた。
「知れる、か。知識を迎えるのではなく、知識を押し付けられるという意味か?」
「……はぁ。」
眉間に皺がよっている。組んだ手も震えている。
「知識を迎える、師を請い知恵を欲し経験を糧として我が物とするのではなく。知識を押し付けられる、弟を被り知恵を聞き与えられた紛い物を我が物と勘違いするわけか。」
「……概ねその通りです。」
更に深まる眉間の皺。そしてそれに呼応するように、蒸気が立ち上るような錯覚を覚えるほどの激情。
「貴様、オレがその様な矮小な人間に見えるのか?……ハッ、軽んじられたものだな。」
自嘲するような笑みを浮かべるがその眼は一切笑いを含まない、憤怒一色に染め上げられている。
「オレは望むモノがあるのなら全て己の手で手に入れる。地位や物だけじゃない、技術も知識も人間すらもだ!!」
「そもそもあくまでも仮定の話ですから。」
「そんなつまらん仮定ですら持ち出すことは許さん。次はないと思え。」
成り行きではあるが彼を試して正解だった。
彼は、イスカンダルという男は信用できる。
「……とはいえ傲慢ですね。」
「ふん、手に入れる力が無いのであればその力をまずは手に入れる。貴様もその内に入っていることを努々忘れるなよ?」
BotWの小技って難しいですね。