自信家には凄みがある
翌朝、伯爵邸に見慣れない鎧を着こんだ二人組が現れた。
返事を出す前にやって来たあたり、こちらの都合は考慮されていないらしい。
片割れの結界により味覚触覚以外の感覚をシャットアウトされると、もう一方に連れられて何かに乗る。
少し揺られていると、不意にエレベーターで昇降するような浮遊感が襲う。
数分もしないうちにまた浮遊感に襲われると、手を繋がれて何かから降りた。
踏みしめる感触は石畳や床というよりは芝生のような感覚。
手を引かれ何処かへ連れられて、手を離されると結界を解かれた。
目蓋を開くと、そこは全方位を白い正三角形のタイルのようなもので覆われたドーム状の部屋。
「貴様がレイか?」
中央には昨日の騒動で取り残された例の荷車。その前には前髪を上げた腕組みをする美丈夫。
黄金色の瞳や髪色、煌びやかな鎧と威圧感も相まって獅子を想起させる男。
「……はい、そうですが。」
見下ろすような視線にじっと視線を返す。
「貴様頭が高いぞ!」
「御方を誰と心得る!」
「畏怖も恐怖も戦慄もない。佳い、気に入った。」
後ろにいる二人を制すと左手を前に出した。
「オレはケーニヘレト公爵家嫡男、イスカンダル・ネメア・ケーニヘレト。王となる男だ。」
「……そうですか。」
御大層な自己紹介を受け流し荷車の様子を見る。
連れてきた二人は彼の付き人なのかなんやかんや言っているが気にする時間も勿体ない。
中の人は著しい衰弱により意識も朦朧としている事だろう。
「宮廷魔術師にも我が家の子飼いの精鋭でも解けなんだ。貴様は解けるのか?」
「できます。予測通りなら。」
「わかった。やれ。」
結界はやはり中の人間の魔力や生命力と対応しているようで、昨日よりも確実に強度が落ちている。
力ずくで破れば召喚術が成立してしまい、指をくわえて待っているだけでは中の人が死ぬ。
「確認作業は終わった。今から取り掛かる。」
「魔術師殿、一つよろしいか?」
結界から手を離すと、後ろから突っ掛かって来ない方の付き人が手を上げて言った。
「……なんでしょう。」
「確認作業、というのは今結界に触れていた事でしょうか?」
「ええ、そうですが。何故、今そんなことを?」
「貴様がいない時に同じことが起きても、対処できるようにするためだ。聞いても分からなければ諦める。」
マニュアルさえあれば解ける魔術式というわけでもないのだが、そこは説明するまでもないだろう。
「分かりました。解体しながらで良いなら説明します。」