食べてすぐに眠くなるのはなんでだろう
なんでだろうを繰り返す赤青の二人組を現代っ子はまだ知らない。
「いやあ、よく来てくれた。」
「俺ァ別な用事があっただけだァ。」
夕飯の席でタイタン伯爵がリヒトへそう告げた。リヒトはいつも通りの態度で答えたが。
リヒトはその乱雑な素行と裏腹に、テーブルマナーから雑学まで幅広い知識をもつ。
「んだよ。」
「いや、てっきりテーブルマナーとか知らないものかと。」
「てめェ、いい加減ぶっ殺すぞ?」
「まあまあ。何はともあれ自分の家だと思って寛ぐと良い。」
「もとよりそのつもりだァ。」
「あんた、親方様に向かって」
「クリス。彼は公私を分かっている人間だ。」
「……失礼いたしました。」
伯爵の指摘にクリスが大人しく引き下がる。
クリスがそう考えるのも無理はない。言葉遣いは汚いしキレやすい、そこらにいるチンピラと大差ないだろう。
「リヒト殿も許してやってくれ。」
「許すも何もねェ。尊敬する人に対して態度がでけェ奴にァ誰だってそォすらァ。俺だってそうすらァな。」
「そうか、すまなかった。俺はあんたを誤解して」
「うるせェなァ。許すも何も」
「うむ、話はそこまでだ!今は楽しく食事を楽しもうじゃないか。」
教官の一喝で二人は、と言うよりリヒトが渋々言い返すのを止めた。
自分が悪い。いや自分が悪い、と責任を引き受けあう様は面白いものがある。
「んだよ。」
「何でもない。……さあ。普段はなかなか食べられないものが多いんだ、たっぷりと味わうとしようか。」
目の前に並べられたスープを口に運ぶ。
うん、何の出汁なのか何の具材なのか全く分からないが旨いものは旨い。
「そうだ、レイ……レイ?」
食べ終えた皿が片付けられるのを見ながら、満腹感に浸っていると教官から声が掛かる。
冷や水を被ったように驚く自分を感じ、うたた寝でもしていたのかと思い至る。
「……なんでしょう。」
「ふふっ……ああっと、荷車の事なのだが。」
昼間、あの荷車の結界を解凍できる場所を探してもらっていた。
教官の業務時間を割いてしまう事は申し訳なかったが、中に居るモノの体力がもつかどうか分からなかったのだ。
中身は恐らく人。人を贄にした場合に何が喚ばれるのか俺には想像がつかない。
その二つの理由から、教官には何が出てきても大丈夫な場所を用意してもらえないか頼んでいたのだ。
「場所は一つ用意できた。」
「暗いですね。条件でも出されましたか?」
「ああ、場所は帝国軍練兵場で条件は二つ。現在地の特定をしないこと。召喚に成功した場合の使い魔の利権は帝国軍に預ける事の二つ、だと。」