友人と駄弁るのはいつになっても楽しい
「おう。そんで、あんたは?」
「リヒトだァ。暫く世話にならァ。」
促され名乗ったリヒトをクリスは黙してじっと見つめる。
それは顔や風体を見るというよりは、何者か見定めるような眼差しだった。
「てめェ、何見てやがんだァ?」
「ああ、いや。なんでもねぇ。リヒトさんね、よろしく。」
「チッ……場所は覚えた。俺ァ武器取りに行くからてめェは先入ってろォ。」
「ああ。暗くなる前には帰ってこいよ。」
「……わーってるわ、クソが。」
バツが悪そうな顔で向かったリヒトの背を見送る。
いつもの軽口に対してのキレが悪い。
「悪ぃことしちまったなぁ。彼の好きなものとか知らねぇ?」
「さぁ。知り合ってまだ間もないから分からん。」
「……それであのイジり方なのかよ?俺はお前が分からねぇな。」
それから客間では紅茶とお茶菓子片手に、クリスと今までの話に花を咲かせた。
聖戦が始まりそうだ、とかリーラに関することは置き換えたりぼかして話したが中々楽しんでもらえたようだ。
クリスからもここ暫くの教官の話や帝都での出来事、彼の興味関心事を聞き中々楽しませてもらった。
といっても、彼はまだこの家の執事の中では見習いもいいところだ。話の殆どが伝聞に過ぎない。
「じゃあ、その軍部のお偉方の子供が?」
「ああ。今じゃ話題の種としちゃあ一番人気だな。」
「その割には興味無さそうだな。名前も忘れてるし。」
「うるせぇ。お嬢様もそこまで話しちゃくれないんだよ。守秘義務だよ、しゅ、ひ、ぎ、む。」
一見、話していて楽しげに見えるクリスも、教官を多少なりとも苦しめたこの話題ではその表情の影が見える。
「あ、帰ってきた。」
頬杖をついてそっぽ向いていたクリスがそう呟いて立ち上がる。
反対側では帳の降りそうな夕焼けの中、確かに扉が開いてリヒトが気持ちの悪いニヤケ顔で入ってきた。
クリスは準備をしてくると一言告げて客間を小走りに飛び出した。
彼には【回復魔法】と【強化魔法】を教えてもらった。
その時にも感じたクリスの底知れない実力に舌を巻く。
「攻め落とそうとしたら苦労しそうだな。」
思わず口を突いて出た野蛮な思考を振り払う。
昼間の戦闘でのアドレナリンがまだ残っているのだろう。
「すー、はー……喉渇いた。」
呼吸を整えると、座り直して冷めた紅茶をカップに注ぎ直す。
久し振りの歓談に頬が弛んだ事に気が付くことはなかった。
早く終息しねぇかな。