特技を伸ばすか苦手を克服するかは状況による
遅くなりやした。
楽しい楽しい戦闘シーンは終わりですが、また今度始まります。
蒸気が地面へ落ちるとその辺りの地面一帯が藤壺に覆われていた。
ホムンクルスの彼女が倒れ臥すのは見えているがリヒトは何処に消えたのか。
そんなことを考えながら観察していると、地面から鋭利な爪のようなものが突き出てきた。
爪が左右に少し揺れると、爪でできた穴から腕が生えてきた。
「お前、何してんの?」
「幾つかあるあの女を殺す選択肢の準備にィ、決まってんだろォが!」
「そうか。意外だな。」
「何処がだァ!!」
冗談でもなく何でもなく、本当に感心している。
はっきり言って、戦闘中にこっちに彼女を蹴飛ばしてくることすらあり得るとも考えていた。
「魔物も動物も自分に狩れる時間、場所、瞬間でしか狩りをしねェ。特技でしか戦えねェってこったァ。」
「そうだな。当たり前だ。」
「俺ァ奴らの力をそのまんま使える。奴らの思いもよらねェ時間、場所、瞬間で戦える。」
「……?ええと、つまり?」
「だァかァらァ、それが俺の特技だっつってんだよォ!てめェの言う当たり前をしただけだァ。感心されるいわれァねェ!!」
「よくぞ言った、青年!」
俺とリヒトの軽い口論のようなコミュニケーションに誰かが反応した。
「人間には意志があり感情がある。だからこそやりたいこととできることが相反する事がある。それを自然界を引き合いに出し、特技を伸ばす事を当たり前だと言い切れるその胆力!素晴らしい!」
「誰だァ、てめェ?」
「探索者ギルドの養成所で教官を勤めてくれた方だ。今回の一件では指揮官にあたる。」
リヒトに教官をそう紹介すると意地悪そうな笑みを浮かべ下から俺を覗き込むように見上げる。
「随分と他人行儀になってしまったものだな?」
「教官こそ、バランスが悪いとかで俺を回復役に仕立て上げた張本人とは思えない発言ですね。」
「はははっ、すまないな。……君達の次に担当した子が軍部のお偉いさんの子供で、指導方針に文句を言われてな。私のことも突っつかれて仕方なくだ。」
教官の瀕死の大怪我を引き合いに出して、探索者の有り方は群体ではなく単体が好ましい。
故に圧倒的な才能を持つ私の子供には周囲を支える力ではなく一個人として強大な力を。
などとくどくどと説明されたと小声で説明してくれた。
本音と建前を有効活用する権力争いはノブレス・オブリージュらしい。
「して、彼が話していた?」
「ええ。あと、お願いしていた件は?」
「ああ、構わないそうだ。」