Xデーは近い
それから半分撃ち込んで俺の攻撃が単なる物理攻撃だと分かったようだ。
照準を向けることも難しくなるほど攻撃が苛烈になり、身動きが取れない。
流石に二人分の壁と攻撃を任せたリーラの魔力も枯渇してきたのか、使っていた防御魔法【無盾】も最低限になって来た。
「くっ」
「ふはは、どうやら底が見えてきたようですねぇ。」
ついに前面に居るリーラが被弾する。いくら魔力で傷口が補填できるといえども、交代して補給できる向こうと二人きりのこちらではジリ貧だ。
「リーラ、分断する。」
「だが、防御は?」
「大丈夫、地の利は此方にある。」
俺はリーラにそう告げると後ろに下がりながら二人を撃ち殺し、一目散に山脈側の森林へ走る。
男が指示したのか部下五人が此方へ付いて来た。
矢の軌道も先程までの直線的なものから曲射で狙い打ちしてきている。魔法も同様に攻撃よりも地形を破壊して逃げ場をなくすつもりのようだ。
それらを掻い潜り岩陰や樹上に隠れながら奇襲する様は、さながらゲリラ戦のようで懐かしさすら覚える。
狩猟用トラップも使って何とか二人を撃ち、一人を飛竜の餌にした。
「残り二人だけどまだやるつもりか?」
部下は隊長と違って寡黙なようで、俺を黙々と追い詰める。見た目が子供の敵を慎重に襲えるというのはなかなか肝の座り方が違う。
しかし、俺も目的も無しにうろちょろしていた訳ではない。
目的地の洞穴に一発だけ銃弾を放つ。一発、それだけでいい。跳弾させるだけで立派なアラームになる。
俺は穴を横切って観念した風に座り込んで、拳銃を二人に放り出す。
片方が拾い上げるために一歩前に出ると、もう一方は若干警戒を解いて剣を鞘から抜いた。
「KSYAAAAAA!」
「ぎゃぁあああああ!」
すると穴から白いぶよぶよとした目の退化した魔物の首だけが飛び出し、拾うために前に出ていた方を丸呑みにして、抜いた剣ごと腕をもっていく。
両腕も武器もなくては反撃も何も出来る事なく、ぶよぶよの腹の中に収まってしまった。
ぶよぶよが目の無い顔で俺を見ると、拳銃を吐き出して興味を無くしたように頭を穴へ戻していった。
「げっ、くっさ」
あのぶよぶよは見た目こそ気持ち悪いが傷付けなければ温厚な魔物だったのだ。やはり地の利は此方にある。
俺が小屋の方へ戻るとリーラと隊長を名乗る男しか立っていなかった。
無論、それを一騎打ちで終わらせるつもりはない。
魔法の応酬に夢中な男の背後に回るとしっかりと脳幹を撃ち抜く。
眉間から中身をぶちまけながら男は即死。前のめりに倒れたことでキョトンとしたリーラと目が合う。
「なかなか惨い事をするな……」
「まあ、この距離なら外す事は無い。それなら無力化より即死の方が効果的だ。」
「理詰めじゃなくて感情的にだな……まあ、いいか。」
リーラは結界を張り直し、俺は剥いだ身包みを中に死体を外に一纏めにする。
島全体を覆う程の結界はたとえ大精霊でも魔力の枯渇を起こした。その代償は注意力の欠如であり、致命的な隙を生む。
「……!リーラ、数が合わない!」
「死体の数か?レイが離れて殺した六人をちゃんと抜いたか?」
「俺の方へ来たのは五人だ!一人隠れてる!」
気付いたのを見計らったかのように足元に矢が刺さり、今度は別の方向から二本の矢が飛んでくる。
一方の矢を狙い撃ちもう片方の矢へ照準を向け引き金をひく。
甲高いカチンという音がこれほど印象深く刻まれることは他にないだろう。それはこの場において絶望以外の何物でもない。
何にも遮られることなく飛来する矢が彼女の左肩に突き刺さって倒れた。
矢の軌道から逃した男を見つけ【無槍】で殺し、リーラに駆け寄る。
「すまん、俺がもっと早くに見付けて殺すべきだった……」
「ぐぅ……気に病むでない。相手の技量を見誤って魔力を使い過ぎた妾の失態だっ、はぁはぁ」
リーラに了解を取り矢を引き抜いて傷を診る。唇が段々青くなっていく。