召還
「ブッ潰してもいィんなら、そうすらァ!」
意気揚々と屋根を破壊したリヒトが咆哮する。
突如巨大化したリヒトの重量に耐えきれなくなり、振り下ろされた両腕のせいで壁すらなくなった。
「へぐっ」
ついでに爺さんが瓦礫に圧し潰された。
また、周囲では兵士の着ている鎧の音がガシャガシャと鳴り続け、何らかの陣形をとっている。
「くそっ、既に包囲を」
「あァ?んだよ雑魚がァ。」
「観念しろ密輸犯共!凶悪な魔物を使役しおって!」
「ざけんなァ、俺ァ味方だッつーの!」
「ひぃいい、お、お助け下さいぃいい!」
少しタイミングを間違えたかもしれない。だがまあ、許容範囲内だ。多分。おそらく。
「レイ!」
「教官!」
やり取りはこの一言で充分。
ドッペルゲンガーには教官の下へ訪れて、この件について話をつけてこいと命令していた。
そしてその証に教官から何か預かって来いとも。
「む、では彼があの?」
「ああ、出来の良い子供たちの一人だ。」
教官が上官と思われる、先程降伏を促した身なりの良い兵士へ指示を出している。
距離があって聞き取れなかったが得意気な顔だ。自慢でもしているのだろう。
「首謀者は彼とその獣ではないッ!そこにいる老婆だッ!」
「誰が獣だァ!」
「……老婆をひっ捕らえろ!」
いつの間にか兵士の群れの奥深くに潜り込んでいた婆さんが脱兎の如く駆け出した。
上官の指示により一斉に一般兵が集まるが、それよりも素早く動く婆さんに翻弄され追い付けない。
リヒトも婆さんを殺す勢いで殴りかかったり、手刀で凪払ったりしているがそれも当たらない。
年齢を全く感じさせない身のこなしに感心するが、そんなことを言っている余裕などない。
「目標は荷台だ!」
標的に気が付いた教官の指示に従い、先回りをするようにリヒトの足下から移動する。
「【召還】」
取り出した二本の大剣で軽く魔術式を描き使い魔を呼び出す。この式は一から新たに契約をするものではない。
魔術的な繋がりがあるだの何だのと詳しく説明すれば長くなるが、要は使い魔を帰らせるものに過ぎない。
「ただいま帰還致しました。」
「婆さんを止めろ。」
「は。」
この大勢の中で銃は使えない。なら、ベストはマンツーマンで叩ける奴だ。
適当に放り投げた二振りを器用に逆手で受け取ると、俺とそっくりなあいつは悠然と駆け出した。