素直にご厚意に甘えさせてほしい
「何を使ってたんだ?」
「鉤爪だ。」
「昔って言ってたよな。それ、時間かかるのか?」
「んなこともわからねェのかァ?俺が使うのァちょっと特殊なもんなんだよォ。」
「特殊、か。」
「あァ。完成してたら真っ先にお前に使ってやらァ。」
帝都に向かう街道の途中。脇を駆け抜ける馬車を横目に歩きながら、鍛治屋への用事について尋ねた。
売られた喧嘩については無視したとして、特殊な鉤爪と聞いても何ら予想がつかない。
何はともあれ、得意な武器を扱えるのなら彼の身体能力を以てすれば大きな力になるだろう。
「それより、歩いていて大丈夫なのか?」
「あァ?少し遠い程度なら、んなもんすぐじゃァねェか。」
「少し、って具体的にはどれくらいだか分かってないな。馬車で丸一日くらいだぞ?」
「はァ?!それのどこが少しなんだ!少しって言わねェだろォが!」
「いや、俺も初めて聞いたときには驚いたからな。」
結局、このまま進んでいても早く着けはしないと思い、側を通る馬車と並走しながら乗せてもらえないか交渉した。
四、五台断られた後条件に護衛をタダでする事を加えると早速一台が食らいついた。
「いんやぁ、ありがてぇなぁ。こりゃあおめぇさんの日頃の行いが良かったんだなぁ。」
「いぃえぇ、あなたが真面目に働いてくれてるお陰だぁ。」
食いついてきたのは、いかにも畑仕事してそうな格好のお爺さんとその奥さんのようなお婆さんの二人組だった。
訛りのキツい二人の馬車は御者台の後ろに小さな客車があって、その後ろに幌付きの荷台がある。
俺たちはその荷台の中身は何があっても覗かないという契約で護衛兼相乗りさせてもらった。
リヒトは二人を見て険しい顔をしていたが、二人の言葉に乗ってご厚意に甘えさせてもらった形だ。
「普段、お二人は何をなさっているのですか?」
「そうだねぇ、稔ってねぇか確認してから収穫作業かねぇ。」
「んだなぁ。ウチの周りは豊かだもんでなぁ、儂ら二人で探すのは中々骨の折れるんだなぁ。」
二人の話を聞いていると、リヒトは更にしかめっ面になっていく。
「おい。」
「リヒト、こちらはわざわざ乗せてもらっている立場なんだ。不満があるのなら野営の時にしてくれ。」
「俺は知らねェぞ?」
「何をだ?」
「チッ、勝手にしろォ。」
それから数刻ほど過ぎて日が沈み始めた。
老夫婦には街道の脇に停めてゆったりしてもらい、俺とリヒトで薪を探しに行った。
夕闇に紛れ足元から伸びた影に気付く者はいない。