新喜劇的な事って割と起こると思う
んー、難産。書いてて楽しいところと難しいところって交互なんですよねぇ……。
グリル曰く、彼ら五神教と戦争して恐ろしい点は戦時法が通用しないところだそうだ。
戦時法とは、簡単にまとめると戦争におけるルールの事である。
噛み砕いた言い方をすれば、宣戦布告なしに攻撃してはいけない、降伏旗を掲げながら進軍してはいけない、ただの一般人を攻撃してはいけない等がある。
「だが、奴らの教義に『己の感情に正直であれ』だったっけな?そんな感じのがある。要は拷問したきゃしなさいよ、ってこった。」
「ああ、よく知ってる。」
「あー、司祭だか司教だか殺ったんだっけ?なら話が早い。……この世界にも戦時法みたいなもんはある。俺の知ってるそれとは割と齟齬があるが、概ねは同じ。」
だが、何れにせよ五神教が教義によってそれを遵守する道理がない。遵守したいならするだろうが、信徒の大概は免罪符を得るために動いた悪性共だ。
「だからまあ、さっさと避難誘導しなきゃそこは多分壊滅するだろうよ。」
「なら今すぐにでも」
「行ってどーするンだ?」
急がなければとその場を後にしようとすると、いつの間にかバーカウンターで酒瓶で遊んでいた精霊の少女が言葉を投げ掛けた。
どうするも何もない、ただこの事実を伝えて避難を誘導するだけだ。そこまで考えてみれば自ずと一つ疑問が浮かぶ。
「そンなとっぴょーしもねー話、ふつーは鼻で笑われるだけだ。」
「だが知っているのに伝えないのは罪だと俺は思う。」
「罪、ね。」
「俺が何も感じなかったとしても、【レイ】にはどうか分からない。いつか【レイ】が誰かに助けなかったと揶揄される事があってはならないんだ。」
「【レイ】がー、【レイ】がーって、結局おめーじゃねーか。」
俺が【レイ】?そんなことはあり得ない。俺は明日暮飛雄だ、【レイ】じゃない。
だがそれを説明しようとしたとて上手く言葉にはできない。
「あ、ちょ、レイ?!」
少女の言葉を無視するように荷物を纏めた。出ていくのを察したのかグリルが手を掴んで止める。
「俺だけでも向かう。入団早々に悪いが別行動させてもらう。」
「いや、そうじゃねぇんだって!」
振り払ったはずの手にまた捕まる。手首を握る指が食い込んで痛い。
多分、ラブロマンスならばこの上ないシチュエーションなのだろう。おっさんと少年なのが玉に瑕だが。
「帝都からのほうが近いんだろ?そっちに行くための転移装置あるからそれ使ってけよ。」
この上ないラブロマンスどころか、この上ないコメディだったようだ。それも三文芝居だ。
「……それを早く言ってくれ。」