交差する思惑
「んー、了解。返事は?」
「はい、受諾しましたね。会談は時間的猶予を鑑みて双方の使い魔を通して話し合おうと。」
「戦場は?」
「予測ではフォルトナ山付近の平野になるのだそうですね。」
「わかった。ま、とりあえずリヒトを連れてきて。今正門前で拗ねてるから。」
了解と答えた男は頭を抱えながら出ていった。この傭兵団の中では恐らく中間管理職なのだろう。
フォルトナ山とは現在、五神教の総本山にされてしまった山の事だ。
地図によればフォルトナ山より北には海しかない。また南部から南西部にはグラスコ砂丘やエディンがあり、南東部に件の平野がある。
しかし、そこには一つ問題がある。
「あの辺りには村があったはずだがそれでも開戦するのか?」
「んな訳ねぇだろ。あの一帯は帝国の決戦場だぜ?不死者ばっかで人間なんて住めやしねぇ。」
「いや、あの辺りに孤児院と小さな村があったはずだ。」
元気な子供のいる孤児院がある。カスパールと再会したあの教会がある。
「何を根拠に……もしかして、知り合いが居たりする?」
「孤児院の運営者だ。それに、リリアが向かった。」
「……拙いな。率いてる軍人によっちゃあ勝手に住んだっつって殺しかねねぇ。」
何故守るべき国民を殺すのかと疑問に思ったことが分かったのか、グリルは苦虫を噛み潰したような顔を俯かせ話す。
「何十年振りの戦争だ、過激派共は興奮してるだろうからな。まともな倫理観してるかどうかも怪しいな。」
「流石にそれは」
「お前に帝国軍の何が分かる!……すまん、八つ当たりだ。」
あまり良い思い出がないらしい。それもそうだ、帝国軍に攻め滅ぼされた国の人間だったのだから、元とはいえ敵軍の事を良く思わないだろう。
「いや、俺の浅慮だ。気にするな。とはいえ村があることくらい知らなきゃおかしいだろう。第一、彼らだって税の徴収くらいは受けるはずだろう?」
「それもそうだな。なら何故?いや、まさか。」
それきりグリルは黙り込み長考し始める。険しかった表情は次第にほの暗い笑みに変わる。そして気が触れたように声をあげて笑い始めた。
「ンフフフ、フフフハハハッ、アッハハハハハッ!」
「どうした?」
「いんや。あいつらお国の危機だっつうのに、政治的な案件まで片付けようとしてやがる!」
「なるほど、敵対派閥の排除か。随分と余裕なんだな、過激派が負けたら終わりなのに。」
「……ああ、そうだよな、普通。」
「他に何かあるのか?」
「何でもねぇ……作戦としちゃ大方、勇者とやらを投入して一発逆転て腹だろ。馬鹿だよな、相手は何しても自由っていう教義で動いてる奴らだぜ?どんな搦め手で来んのか分かりゃしねぇっつうのによ。」