気の利いた言葉は咄嗟に出るもんじゃない
「おーおー、美人じゃあないの。子供らが羨ましいねぇ。」
「ならさっさと死ンで生まれ変わるンだな。」
「グリルさんはお上手ですね?」
「軽口も程々にな。」
宿を引き払い、リリアを連れて出てくると精霊の少女とグリルが二人並んで待っていた。
二人と共に路地へ入りリリアは砂騎士の魔術を発動し俺達四人を覆い隠す。
顎を撫でながら緩まった顔に彼女は苦笑しつつ大人な対応をしている。
「さぁて、ウチの団員は近くの森の中でも待機させてるから俺達はそろそろ行くかね。」
「……はい。」
「チッ……先、行ってンぞ。」
「別に気を使わなくても良いんだが。」
「おめーに言ってねーよ!」
「……ああ、わかった。」
なんだなんだと気付かないグリルの手を引っ張って少女は大通りへ向かう。
既に別れの挨拶は済ませたし気は使わなくても良いが、どうも女心というものはそうはいかないらしい。
「また会える、よね?」
「生きていればそのうちな。」
気まずい。あまり気の利いた事を言えるタチでもない自分が恨めしい。
リリアが背を向ける。特に何の変哲もない後ろ姿から、何処かで見たような懐かしい雰囲気を感じる。
思えば、前世での母も涙を見せない強い女性だった。いつも明るく周りの人も思わず笑顔になるような、そんな女性だった。
「何かあったら絶対助けに来てくれるわよね?」
「?……そのつもりだ。」
「そうよね、貴方は私の護衛だもの。」
震える声がよく聞こえる。大したことは出来なかったが、彼女にとっては人生を左右する大きな転換期だっただろう。
「俺が死んだら【レイ】を気にしてやってくれ。」
返事を聞く前に、俺はグリル達の後を追う。
またいつ会えるかは分からない。だが、今生の別れではない。
その時に会うのは俺か【レイ】かの違いだけだ。
「なンか、カッコつけてたな?」
「俺が死んだらレイを気にしてやってくれ、キリッ。ブフッ、きっつ、何気取ってんの?アハハハハハ!」
「ふざけんなぶっ殺すぞ?」
「ちょ、キャラ変わってない?!てか銃口向けんなや!……ってうぉあ?!マジで撃ちやがったこいつ!」
「チッ」
「死に損ねたな。」
「アンタも何関係無い感、出してんの?!俺よか先にイジってたやろ?!」
騒々しいが、嫌いじゃない。
黒い霧が影に帰るのを横目に捉えながら門の外へ向かって歩く。
「ギャー、耳!耳、掠ったぞ!」
「次は当てる。」
「当てんな!」