包容力は【母親】の代名詞
「それで、その怪我なのですね。」
「ああ。」
屋敷での出来事は粗方話し終えて擦り傷だらけの説明をする。
彼女、リリアは呆れ顔でため息を吐いた。
「貴女はどうする?」
「私?……他の信徒も死んでしまったようですし、いまさら総本山を取り返しに行っても、ですよね。」
「俺はそのグリルという男に用があるが、一緒に来るか?」
正直、来てくれたところで彼女には何もできることはない。せいぜいが衣食住のサポートくらいだ。
ただ、それならその道のプロがいるし数の減った今の傭兵団なら各々でできる。
「いえ、まだ僅かにでも残っている信徒を探しに行きます。小さな教会程度なら飛竜を仕留めた時のお金で買えるでしょうし。」
「なら、帝都の探索者ギルドでパロミデスという男を探すと良い。孤児院出身で彼の経営している教会がある。」
「五神教の教会ではないのですか?」
「一応、子供たちが日課として祈祷してはいるがそこまで熱心でもないし、パロミデス自身は神自体を信じちゃいない。」
彼には一つ面倒事を押し付けることにはなるが、彼が居ない時に様子を見てやれる人がいる分楽にはなるだろう。
「パロミデス様は司祭様でもいらっしゃるのですか?」
「たまに来て管理してるってだけだ。子供たちは近くの村人と自給自してるから面倒もあまりみなくて大丈夫だし、たまに勇者パーティのフェリスが来るからな。」
「……フェリス、様。」
フェリスの話題を出すやいなやリリアの表情が曇る。
彼女は聖女とやららしいが、それはどの宗教の定めた聖女なのかは深く知らない。
「もしかして、彼女は五神教か?」
「ええ。尤も、教義よりも先に役目を押し付けられただけですし、五神教の内情や司祭や司教の事までは知り得ないでしょう。」
「よく知ってるんだな。」
「ええ。立場的には同じですし、僅かですが交流もありました。……と、それよりそんな場所なら何故私が行く必要が?」
「運営費はパロミデスの財布から出ているからだ。一々戻る必要がなければ高額報酬の依頼もこなせるからな。それに。」
「それに?」
「いくら大人びていても、しっかり者でもまだ十代前半の子供だ。包容力のある大人が、万が一の時に頼れる大人が必要だ。」
血が繋がらなくても自分を愛し、時には厳しく導いてくれる大人が必要だ。
俺が知る限り、リリアほどの適任者はいない。
「貴女ならパロミデスも文句は言えないだろうしな。」
「何それ、ふふ。わかった、是非そうさせてもらうわ。」