人が黄昏ているときに茶化すな
結局、俺はグリルの話に乗る事にした。
金銭、同郷、人脈。三つのうち最も必要なのは最後だ。
いくら【魔術王】などというスキルを持っていたとて知識的な事を言えばその道の専門家、賢者の石を専門に研究している者とは比べるべくもない。
だが、そんな人間がいるのかどうかは正直なところ賭けでしかない。それも期待はしていないが、可能性はゼロではないという程度。
「いやあ嬉しいね、これは。」
「こいつが乗らなかったら、どーするつもりだったンだ?」
「フッ、一流は常に第二第三の刃を持っているものなのさ。」
「何かっこつけてンだ。メリット?とやらを三つ目まで出してンだろ。」
「第四第五の」
「言い直さンでいいわ!」
馬車に揺られながらエディンへ向かう。連れられた馬車ではない、グリルと精霊の少女が魔法で作り出したものだ。
車体はグリルの土属性魔法、馬は少女が特別な植物で作り出した生物。
「この幻草馬の動力はなんだ?」
「こーせーする草花にほンらい宿る魔力やらこーのーやらなンやらだな。」
「今のこいつは?」
「くーきちゅーの魔力を貯め込むやつと、魔力でくっついてがンじょーになるやつと、きけンを察知するととンで行って爆発する目玉で視界を得た花だ。」
「最後のやつのせいで見た目が禍々し過ぎるんだが?!」
「格好いいだろ?」
形はあくまでも馬のままだが首には五、六個横一列に眼球が蠢いている。
そして時折視界の端に映った小鬼に向かって飛んで、というより発射して的確に頭を爆破している。
「格好いい、のか?」
「馬鹿か?こんなもん知らねぇやつらからしたらRPGの魔王軍と大差ねぇぞ?!」
「あーるぴーじーが何かはしらンが、こいつを生み出せるのは私だけだ!」
「少なくとも論点はそこじゃないな。」
言いあいを続ける二人を横目に俺は窓の外を眺める。
そろそろ森を抜けエディンまであと少しといったところだ。
こんなに賑やかな馬車に揺られているのも久し振りだと感慨に耽る。
前世から爺臭いとは言われていた。無駄に黄昏るなとも。
落ち着いて見えるのは別にそんな性格だからという訳ではなく、単に精神が摩耗する事に慣れてしまったからだ。
まさか同じ苦痛を生涯で、肉体は違えど二度も味わうとは思わなかったが。
「そろそろだな。おめーも放り出される準備をしとけ。」
「……ああ、分かっ、は?」
突然解除された魔法により、体がものすごい速度で投げ出された。