未知なるものは不気味である
「メリットならある。」
俺の言葉にグリルはそう断言した。
まず一つ、と親指を伸ばす。
「金には困ってない、とはいえ金がなければ生きていけないのは確かだ。あって困るもんでもないだろう?」
そう言って戯けてみせるが、反応を見るとため息を吐いて二つ目と言って人差し指を伸ばす。
「お前、異世界人だろ?」
「……何故、そう思う?」
「やっぱり。前に森でお前を見逃した時に話した事、覚えてるか?」
確か、探索者ギルドでは銀行機能が存在しているとかで今回の報酬はそれで引き出せるとか何とか。
しかし、それが一体どう関わっているのか思案していると為たり顔で続ける。
「ありゃ嘘だ。機能としては存在してるが特に名称は無ぇ。銀行なんて言って理解すんのは異世界人だけだ。たしか、銀行の『行』は中国語で『店』って意味だからな。金銀に関わるから金行か銀行かで悩んで結局語呂で銀になったらしい。」
「今となっちゃ無駄知識だな。」
多少の皮肉にも一切動じない、どころか皮肉で返してくる。
「いんや、お陰でお前みたいなのが釣れる……と、この話は置いといてだ。同郷なら、同郷にしか話せねぇこともあんだろ?」
「無いが?」
思い当たらない。即答すると呆気にとられた後に別口から切り込む。
「……技術的ブレイクスルーを考えりゃお前の銃はオーバー過ぎなんだぜ?どっかで話したことを聞かれでもすりゃ国際問題に発展すんぞ。それを望まねぇのは討伐の報奨から逃げた経緯でわかる。戦争の悲惨さだってお前ならよくよく理解してるだろ?」
「……ああ、そうだな。」
前世の出来事を追想し、彼の言葉の重みを改めて実感する。
黒焦げた孫を見て泣き崩れる婆さん、瓦礫の下敷きになった人を助けようとして逆に圧し潰されて赤い染みとなった男。血塗れのペットを抱き締めて母親を呼ぶ子供。
そんな生き地獄を二度と目にしたくはない。
「俺たち異世界人はこの世界にはない技術を知ってる。使える使えないは兎も角としてだ。だからこそ、無断で強力な力を持つ異世界人を保有している帝国は他の国に目の敵にされる。よくよく考えておけ。」
そして三つ目、と中指を伸ばす。
「例え部下が大勢居なくたって俺の人脈は相当広い。」
「お前が一番な訳でもないだろう?」
「だが俺と同等以上の人脈のある人間とお前に関係があるわけじゃあないだろ?」
教官は軍人だし貴族の出だから帝国内までしかないだろうし、探索者ギルドや傭兵ギルドのトップは未知数だ。
「確かに、そうかもしれないな。」
「だから、お前の探し物を見つけられるのは俺くらいだ。生きている限り、どっかに転生してない限り見つけてみせる。これが俺が提示できるメリットだ。」