我輩は傭兵である、所属はまだない。
教会には懺悔をする部屋がある。大体はそんな造りになっている。
懺悔を聞く人は聖職者のなかでも割と選ばれるらしいが、この場所にはそんな建物も人も、果てには宗教もない。
人より大きな蜘蛛や竜が存在する世界じゃ神がいても可笑しくはない。
だからこそ精霊は存在する。魔法の権化、万物の象徴、神の御遣いとして。
「我は風のまほー、どーぶつと弓、あとは色々だがぶンれーの我には嘘を見抜く力とどーぶつの力だけ。」
ならば、と小さな疑問が回収できた。
「ガキのかっこーなのは、そのほーが動きやすいからだ。分かりやすいな、おめー。……だから、おめーの言葉に偽りがねーのは分かった。」
「ありがとう。」
「ふん。だからってかんじょー的には別もンだ、じじょーは分かったが、まだ我はおめーを許しちゃいねー。」
木に寄り掛かりながら、正座している俺と仁王立ちで威圧してくる少女と、二人の様子を眺める男。
今にして思えば、少女というよりは幼児の方が近いか。
傍観していた男は思わずといった風に噴き出してニヤニヤしている。
「大人げねぇな、精霊サンはよ。」
「よけーな口を挟むンじゃねーぞグリル!」
「グリル?」
彼女にそう聞き返すと、思い出したと言わんばかりに男は手を叩く。
「そうだそうだ、自己紹介だったな。俺の名前はグリル=ロース・スモーカーだ。」
「偽名だな。」
「ぎめーだな。」
「しゃあねぇだろ?名前は奪われたんだからよ。」
男は、グリルは事も無さげに肩を竦めて宣った。
名前を奪うとは何の暗喩だか知らないが、一先ずは彼の名前は分かった。
「それでグリル、お前は何をしにここまで来たんだ?」
「俺の方が年上なんだしもっとこう、隊長って呼んでた時みてぇな敬意をだな」
「さっさと言えよ、グリル。」
「あんたら仲良しか?……はぁ、連れ戻すっつうのとは違うとだけ言っておこう。」
グリルはそう言って剣を抜くと、俺の目の前の地面に突き刺した。
これは帝国流の古い敬意の表し方だ。
「なら、なンの為にこいつを連れてくンだよ?」
長く戦乱の続いていた時代ではわざわざこうして剣を手放すことで相手に刃を向けないと、また敵意はないのだと示していたとボア教官は言っていた。
「なっつったら分かるかな。」
尤も、主な生活圏が戦場という屋外よりも、執務室などの屋内に変化したことで廃れてしまった風習だ。
それを今でも続けているまたは続けられるのは、常在戦場の生業である武人や探索者──それに、傭兵に限られるとも。
「俺は、お前を我らが傭兵団にスカウトしに来た。」