対面
視点が変わります。
馬車に揺られて何処かへ向かう──否、何処も何もない。奴がいる本拠地だろう。
私は後ろ手に縛られて衛兵に連行されているような形で、目の前に座る得体の知れない爺にこの馬車に連れ込まれた。
既に過ぎ去った遠くの林の方から金属がぶつかり合う音が何度も聞こえる。
奮戦しているのだろう、あわよくば武闘派はそちらで倒しきっていて欲しい。
「あなた、エルフよね。」
「ほほ、よう分かるお嬢さんね。」
「あなた訛りすぎよ……それよりも、森の民であるエルフがどうして火属性魔法なんて持っているの?」
エルフという生き物は基本的にプライドが高い。そしてその自信を裏付けるように魔法や身体能力も高く、何より美しく寿命も長い。
尤も、閉鎖的な世界で優位に立てているのならそれは人間も同じ。所謂、お山の大将というものだ。
とはいえそんなエルフにも苦手な魔法の系統は存在し、それが火属性と闇属性である。森に生まれ森で生きる、古いエルフには特に顕著だ。
理由は単純で、練習でも下手すれば森が燃えかねない事と彼らの信奉する神の教義等に反するからである。
老齢なエルフであるこの爺はその特徴が出る筈なのだが、だからこそ疑問を呈ざずにはいられない。
「簡単なことね。森に捨てられたエルフはエルフにあらず。外の世界で生きてゆくにはちと無知だった儂は、奴隷となり誇りである外耳を切られ、主人の命令で覚えさせられたというだけね。」
「耳が変に直線的なのはそのせいというわけね。」
「しても楽しい話ではないね。もうそろそろ到着じゃ、準備せい……といっても荷物はないようだし心の準備をしておきなさいね。」
老エルフの言った通り、それから五分程で到着した。
私を追い掛けて来るには本部を構える屋敷としては随分と安っぽい見た目をしていた。
質実剛健というわけでもなく、装飾が華美な訳でもない。ただ何となく『安そう』という印象を受ける。
「こんなところにいるのか、そう言いたそうな顔をしておるのね?」
「とても代理とはいえ教皇の地位にいる者が居そうではないわ。」
「遅いぞ!やっと連れてきたのか傭兵共。」
十数名の情婦のような格好をさせた部下を侍らせ出迎えたのは、悪趣味な金細工のアクセサリーを着けた中年太りした男。
「ほほ、これはこれはバルゴレ様。少し頭を捻っておったようですから時間が掛かりましてね。このあとはお楽しみになられるのでね?」
「ああ、今からもう」
「それで、報酬の方はいつ頃?」
「やることがわかっているのなら部下から受け取ってさっさと帰れ!貴様らはまだ邪魔をするつもりか」
「……では、命にはお気を付けて。」
見た目も言葉遣いも顔も厭らしいバルゴレは私を見てやはり厭らしい笑みを浮かべて話し掛けてくる。