神と名乗る声と俺俺と名乗る声は信用ならない
小屋の周りで咲く桜が吹雪く一月の末日。
時間が経つのは早いもので、初めて外を出た時からもう四年も過ぎ、俺は十歳になっている。
この四年間はずっと魔術の練習をしていたように思う。
「【製錬】、【精錬】、【形成】、【複製】」
地面に手を着いて着地し魔術の詠唱をする。
グローブが僅かに発光した後、瞬く間に大量の弾を造り出す。
群れからはぐれさせた飛竜を仕留める為だ。
「【装填】ッ……!」
体勢を正し引き金を引くとズガンッ、と音を立てて弾丸が射出される。
放たれた銃弾はライフリングに従い、音速を超えて真っ直ぐに開いていた左目に命中する。
「GGYAAAA!!」
「レイ、よくやった、【無槍】ッ!」
そこへタイミング良く合わせたリーラが現れ、無属性魔法【無槍】を使い喉元を貫いた。
そう、この二年間はこうして魔物や魔獣を狩り、経験値・スキル経験値・蛋白質を獲得していたのだ。
まさに一石二鳥ならぬ、一石三鳥である。
「レイ、何をぼさっとしておる。さっさと小屋まで運ばなければ。」
「あぁ、そうだな。」
小屋の周りは魔物・魔獣が嫌う桜に似た木が生えている為安全地帯なのだ。
そこ以外にいると血の臭いに誘われて魔物や魔獣がどんどん集まってきてしまう。
飛竜の血、骨、鱗、牙などは全部が錬金術や死霊術の触媒になる。
因みに、肉は蜥蜴の肉より少し良い程度の味と食感、つまり蜥蜴以上鶏未満だ。
唯一まともに狩れる蛋白質でなければ、【調理】スキルがあっても食べたいとは思わない。
「今日はリーラが血痕を消す当番だぞ?」
「あ、あれ?妾はあ、明日だったような?」
「……」
「くッ、やはりレイには適わぬな。先に運んでおいてくれ、【清掃】【消臭】【清掃】【消臭】……」
俺が小屋まで飛竜を運んでいる合間に、リーラは生活魔法を使って流れ出た血を消していく。
【清掃】は、繋がった汚れを落とす為、血飛沫のように広範囲に点々と散らばっていると使い辛い。
しかし、リーラも俺も生活魔法は最低限度のLv3しか習得していない為、まだ便利にはならない。
【消臭】は読んで字の如くだ、説明も必要無い。
俺は飛竜の死骸を小屋の前まで持ってきて、早速解体していく。
そのうちリーラも証拠の隠滅作業を終えてこっちへ向かってきた。
「今日の料理当番はレイだからな!」
「リーラじゃないから誤魔化す訳がない。」
「レイの意地悪!」
《【レイ】は、称号【大精霊の保護者】、を獲得した》
「なんか【大精霊の保護者】って称号ついたぞ?」
「妾が保護者だったのに……」
この時の俺はいつまでもこんなほのぼのとした日常がおくれるものと思っていた。
俺は平和な日常をおくりすぎて忘れていた。
失う慣れを、喪う孤独を。
事態が急変したのは二年後の一月の一日。
奇しくも俺の誕生日の出来事だ。
2020/5/3修正しました