無能な上司が有能な部下を使い潰す物語は割りとある
珍しい魔道具を売る店を出てからも幾つかの店を回ったが、どこの店も小人達はせこせこと店主や客に世話を焼いていた。
結局他の店で買ったのは長剣よりは短く短剣よりは長い中途半端な剣を二本だけだった。
以前より接近戦用に用意していた短剣が背が伸びて扱いづらくなった為だが、存外この二本を探すのに苦労した。
万が一の護身用である為高性能である必要はなく、寧ろすぐに鋳潰せるくらいで丁度良かったのだ。
しかし、本来なら嬉しい事なのだろうがどこの鍛冶屋でも魔法剣と呼ばれるような、それだけで魔法も使える剣しか売られていなかった。
そんな高級品を最悪使い捨てになるかもしれない剣として扱うのは憚られた。
だからと言って鍛冶屋に只の剣を鋳造してくれと頼めば、そんな半端な仕事は出来ないとプロらしい回答をいただいた。
結局、衛兵に尋ねて外れの方にあると聞いて買いに行く。
「こいつぁ、只の鉄の塊だ。斬れるにゃ斬れるが、元は大剣を使いたいガキの為なもんで叩き斬る事が本懐だ……ったく、こんな注文は初めてだぜ。」
「恐縮です。」
店主に呆れられたのは兎も角として、そうして新品の剣を手に入れた。
宿は可もなく不可もなく、どこにでもありそうな酒場が併設された宿。
そこでもやはり小人達はせこせこと働いていて、頭上の盆に皿を乗せて運ぶ様はまるでお伽噺のように感じられる。
所謂、労働といわれるその殆どを小人達が担い、主人はあくまでも彼らを管理するだけ。
そう文字に起こしてしまえば、機械化が進み人が働く必要のないSFの世界に訪れてしまったようにも感じられる。
などと、そんな風に感傷に浸っていても、追っ手からの視線は付きまとう。
追っ手は彼女の知り合いしか居なかった、聞いていたがここにきてその知り合いではなくなったと言う。
「どの人も私が知らない人ですね。どれだけ下っ端でも顔は覚えていますし、剣を齧っているようですけど動きが自己流のそれです。私の知ってる人では無いです。」
「人が少なくなって傭兵でも雇ったんですね。殺意は感じないですし、おおかた捕縛を命じられているのでしょう。……始末しますか?」
「もう、どっちでも良いです。」
「でしたら仕掛けてくる様子はないので今は静観します。」
人死にに慣れてしまったのか、それとも言い出した俺に呆れているのか、彼女は布団を頭まで被って寝てしまった。
追っ手を潰すのに立てた作戦は至極単純なもの。勘の良い人間ならすぐにそれとわかるものだ。
だが俺が思うに、今の追っ手の指揮官は相当な無能だ。
餌をぶら下げてやれば真っ先に食らい付くような、そんな単純さが見える。
勝機は未だに俺の手の中にある。