ヘッドハンティングは慎重に
「次の方。お、喧嘩してたカップルか。」
「カ、カカカ、カップル?!」
「はは、そんなに驚かんでも良いじゃないか。」
長い行列を待ち遂に検問まで到達した。守衛の軽口に彼女はひどく狼狽えている。
「二人はこの国は初めてかい?」
「ええ。」
守衛曰く、エディンの検問は他所とは異なり魔法ないし魔術が使えるか否かで検問の通過が決まるらしい。
「通過後は旅行客は専用のバッジを貸与して、出国時に回収するシステムをとっているんだ。」
「なるほど。」
バッジがなければ出向もままならないらしい。失くした人は移民として永住するか、有効期限切れで一週間の牢屋暮らしを強いられる。
「そうだそうだ、移民登録をして永住するならこの後は別の部署に連れていくことになるんだけど、どうする?」
「いえ、大丈夫です。」
彼女はまだ顔を真っ赤にして頭から蒸気が出ている。余程恥ずかしかったらしい。
「そしたら、この水晶に魔力を込めてくれ。単なる市井調査のようなものだから安心してくれ。」
エディンは貴族制度を執らない代わりに国民をつかの等級で分けている。
高いほどより魔力が高く魔法魔術に優れていて、より良い職に就けられることだ。
エディンで真ん中くらいの等級ならば、小国の宮廷魔術師にはなれるとも言われている。
そしてその等級を決めるのがこの市井調査とやらで、それをもとに毎年一度は評定の再考がなされる。
彼女が魔力を込めると水晶は白い輝きを放ち始めた。この輝き方だと真ん中程の魔力量らしい。
俺が魔力を込めると、水晶には罅が入ってしまった。一度に込める魔力が極端に高いとこうなるらしい。
「まあ、よくあることだから気にしないで良いよ。それだけ素養があるってことだからね。」
「申し訳ない。」
「いやあ惜しいけど、旅行客だもんね。よし、じゃあこれで最後だ。二人とも魔法か魔術か、どちらかを見せてくれないか?」
彼女はその場で麻袋に魔力を込めて消えたふりをする。彼女はこれで認められたようだ。
実家の秘術とやらをそう簡単に見せても良いのか。甚だ疑問である。
「全て見せるとなると相当時間が掛かるのですが。」
「いや、一種類で大丈夫だよ。でもそうだね、【召喚術】なんかは」
「【召喚術】ですね、わかりました。」
「大きさの関係で外で出して欲しいんだけど?!」
「すみません、手遅れですね。」
ささっと描いた魔術式側光を放ち始める。色々と便利そうな魔物を呼べたと思うが。
シュレッダーを逆再生するように現れたのは真っ黒い霧状の人型。
契約をしようと手を伸ばすと、人型はすんなりと俺の影に潜り込んでいった。
「ドッペルゲンガー、か。」
「君、本当に移住しないか?」
「申し訳ないですが。」
「そっか。残念だな、本当に。」
置いてけぼりにされた彼女は流石に冷静になれたのか、頬の赤さもなりを潜めていた。