けじめをつけることは必要だ
夢を、見ていた。
前世で首を括ったあの日のリプレイを見ているようだった。
思い返せば、彼女の首についていた絞められた痕には見覚えがあったように思う。
大切なはずの記憶が思い出せず、喉元に小骨がつっかえたような感覚に陥る。
他にも、前世でのカスパールとの会話のリプレイを見てもいた。
あまり良い記憶ではないがなぜ、今夢として思い出したのかはわからない。
兎にも角にも、夢を見ていられる程の余裕はあったのだから総括すれば良かったと言えるだろう。
「目が、覚めましたか?」
「……ああ。毒は?」
「どうやら、この一帯には毒をもつ、生物が居たようで、商隊の方から、解毒薬を買いました。」
「そう、ですか。」
窓の外を見ながら顛末を話す彼女。声に抑揚がなく、僅かに声も震えている。違和感、で済ませて良いものか……
「何か、ありましたか?」
「いえ、大丈夫、ですよ?」
結局尋ねることにしたがそれでよかった、不安は的中した。
頬は紅潮し、目の下に隈があり、そして何より虚ろな目をしている。
「失礼。」
「ひゃっ、え?な、何?」
彼女の首もとに触れてみる。反対の手で脹ら脛に触れる。
予想通りだ。体温が熱く、脹ら脛が痙攣し、その上このクソ暑い中で一滴も汗をかいていない。
「俺が寝ていた所ですみませんが、ここで寝ていてください。」
「な、んで?」
「熱中症や熱射病、と言われるものです。」
典型例が揃っているあたり、間違いないと言っても良いだろう。
背嚢から麻布を取り出して適当な大きさで貫頭衣を作る。
《スキル【裁縫】の、スキルレベルが、上昇した》
「氷水を貰いに行ってきます。それまでにこれに着替えておいてください。」
「着替え?」
「体を冷やさないといけません。その為に、通気性の良い服に着替える必要があります。俺が脱がせても良いのですか?」
「いや、自分で、できます。」
麻布と共に取り出した瓶に、護衛の人から魔法で生成した氷と水を貰う。
戻ると彼女は既に貫頭衣に着替え終えて横になっていた。
脇、首、腿の付け根に瓶を置き、塩水を少しずつ飲ませる。
「少しは安静にしていてください。」
「はぁい。」
間延びした返事の後、彼女はすぐに眠った。
きっと、解毒するのに夜中まで東奔西走したのだろう。ありがたいことだ。
エディンはもう目前。それはつまり、彼女の護衛も期限を迎えることを意味する。
エディンに着けば彼女は襲われなくて済むのか。エディンに着けば俺は追われなくて済むのか。
そんなことはないが、いつまでも一緒に行動できるとも限らない。