意気揚々と詰んでいく
いやぁ、久方ぶりになりやす、著者です。
どうしても2話まとめて書いた方が読みやすいかなぁって試行錯誤してたらいつの間にか2週間たってますた。
今回と次回は彼女のターン。どぞー。
彼が眠りについた。彼が侵されている毒は、彼の言う『追っ手』の作った毒だ。
目標は長く苦しみ続けるだけで体力を奪い続ける殺傷性の無い毒物、だったと思う。
対処法は苦痛に抗わずに養生するだけで快方に向かうというもの。
だけど、背中を叩かれたくらいでその毒を注入するのは難しいと思う。
何故なら、その毒はただの毒じゃない。魔法で生成し、数種類の魔物の毒と調合された、粒状の毒だから。
『追っ手』の一人は錠剤って言っていたソレは、体内に入れるのには口からでないとほぼ不可能だ。
「それに、私はあの人を知らないもの。」
『追っ手』は、お父様を殺した連中がエリックのように、私の身近な人を脅して従わせている。
だから、私が知らない『追っ手』はいない。寧ろ、全員の顔がわかると言っても過言ではない。
そして、盤上遊戯でもチェックを何度も繰り返し、焦らせてだんだんとチェックメイトに追い込む、この徹底的な性格の悪さ。
「ディエゴね、最悪だわ。」
ディエゴの戦術は大体読める。盤上遊戯では彼には一度たりとも勝てた事はないが、それとこれとは別だ。
頭を抱えていても何も始まらない。私の持ち駒は私だけ、彼の持ち駒は未知数。
「上等じゃない、捻り潰してあげる。」
空元気で発破を掛け、この子のずれた毛布を被せて部屋を出る。
彼に毒を飲ませたということは、一度かなり近くに来た事を意味する。
私がその場に居なかったか、気付かれないような魔法でも使われていたのだろう。
しかし、誰にも気付かれないような高度な魔法技術をディエゴが使えたのだろうか。
遠くから撃ち込まれればそれに気付かないあの子じゃない。それにディエゴだってそんなに身体能力は高くない。
それなら私が居なかったときに狙われたのだろうが、彼は私に付きっきりだった筈だ。
「トイレか、風呂か。」
もし私がトイレに行った時、ディエゴが彼を襲っていたのならば、私は知るよしもない。
風呂はもっとない。彼も私もここ数日は濡れたタオルで体を拭いていただけだからだ。
要するに、薬を飲ませることは容易ではないのだ。
彼のことだ、トイレなら中までは来なくても入り口で待っていただろうし、そうそうその場から離れたりはしないだろう。
体を拭くにしたって互いに背を向けて、その場で拭いていたのだ。流石にその時に来たなら私でも気づく。
「考えてもわからないし、まずは行動ね。」
思考を切り替えて、商隊に連なる人やその護衛達の顔を駆けずり回って確認する。
案の定、この場にはいない。変装である可能性もない。
自ら危険は犯さない。慎重に慎重を期して手駒だけで事を済ませようとする奴だからな。
これは詰みだ。ここからグラスコまで戻れば彼は死んでしまうし、彼を治療する手段がない。通常なら。
次話は18時更新になります。