絶体絶命?
暫くすると遠方に白亜の外壁が見えた。間違いない、あれがエディンだ。
「今日はここらで野営をするらしいですよ……って、大丈夫ですか?」
「ああ、戦闘に、支、障はな、いです。」
「顔が青白いですよ?」
そのエディンを目前にして体調が悪い。五感は正常に作動している。指先は動く。脚も動く。
だが、痙攣が止まらない。彼女曰く顔も青白くなっている。
背中が痛い。症状から何が原因か特定をしようとしているが、如何せん頭が回らない。
「【清潔】、駄目か。細菌、と感、染症じゃ、な、いな。」
恐らく毒物であることは分かった。だが、それ以上は頭がぼうっとして考えられない。
「本当に支障はないんですか?!」
「見栄を、張りま、した。多分、一時、間も、保たない。」
いつから気分が悪くなったんだったか。護衛と別れて一時間しないくらいだったような気がする。
背中の痛みは彼が叩いたところから広がっている気がする。
仮に彼が犯人だとして、理由がない。命を狙われる理由などあろうはずもない。何故俺を狙うのか。彼女ではなく。
「……ああ、追っ手か。」
「えっ、ど、何処ですか?!」
「近、付い、てきた、護衛のお、とこだ。」
しかし、どうやって俺達の存在を見つけたのか。腰に着けた麻袋に魔術がかかっているはずだが。
「腰の、麻袋、見、て……くれ。」
「ええ、良いですけど、ってああ、魔術式が擦れてる!」
「いつ、か、らだ?」
彼女のは無事で俺のは壊されている。俺の姿が露見したのは対飛竜戦での一度きり。
俺を戦闘不能にして、反撃を防いだつもりだろうか。
大正解だ。騎士型での運用をしていない今、彼女には俺ほどの戦闘能力はない。
「絶っ、対に、離、れるな、よ。」
「でも犯人なら解毒剤を持ってるかも知れませんよ?」
「狙、いは貴、女だ。貴女を、引きずり出す為に、ぐぁ、ぁあ、はぁ。」
「大丈夫ですか、先程よりも酷いですよ?!」
肩を貸そうとする彼女を避け、地面にどさりと倒れる。
「貴女が、生命線だ。お、れに触、れ、るなよ、絶、対だ。」
彼女のいない明後日の方向を向いて呟いた。
聞いていたのだろう?探しているのだろう?殺さなければならないのだろう?
だが、彼女は見つからない。なにもしない限り、彼女が見つかることはない。
ぼやけて聞こえる周囲の音を子守唄に、俺は暫くの眠りについた。