物珍しさには目を奪われるものだ
正式に解放された門をくぐり、先程の言葉について尋ねる。
「俺を倒せそうな人って、誰ですか?」
「私もあまり詳しくは無いのですが、どうやら【勇者】と呼ばれる人が相当の強者らしいのです。実際の強さは」
「アーサーか。今は相討ちになるかも知れないですね。」
「お知り合いでしたか。」
「……まあ、似たようなものです。」
答え辛い質問に言い淀みながら、エディンに向かう他の商隊に交じり歩を進める。
察してくれた彼女はそれ以上訊くことなく、目的地へ想いを馳せる。
「エディンが魔法や魔術で成り立っている国だとは、既に話しましたよね?」
「なんでも、魔法研究が盛んで人口のほぼ全てが使い魔を従えているとか。」
「ええ!私は使えない魔術なのですが、労働力を概ね使い魔に任せているそうなんです。」
運動や勉強に向き不向きがあるように、使える魔法も向き不向きがある。例で言えば俺が属性魔法を使えないように。
しかしそれを超越して、皆が同じ魔法を一様に使えるというのは不思議なものだ。
もしかしたら、淘汰圧のようなものが存在し使えないものは国を出ざるを得ない、というような状況だったりするのかもしれない。
「その使い魔なのですが、とても珍妙な姿形と聞いています。」
「珍妙、ですか。」
使い魔と言うものだから、多種多様な使い魔が跋扈しているイメージをしていた。
実際はどうやらさほど種類はないようだが、それら全てが珍妙なのか。
「気になりますよね?」
「珍妙、というくらいなのですから通常では存在しない生物なのではないでしょうか。」
「いや、もしかしたら口にするのも憚られるくらい、変な形なのでは?」
「はは、そんな面白ぇもんじゃねぇぞ?」
割り込んで来たのは交じっている商隊に正式雇用されている護衛の一人の男だった。
からかうように肩を組んでくると話を続けた。
「ありゃあ、人形の一種さ。」
「人形、ですか?」
「ああ。普通は人形っつったら土だとか自然のモンを人型にして操るんだが、あれはな」
「馬鹿野郎!サボってんじゃねぇぞ!」
「うす!……まあ、自分の目で見て確かめな。そんじゃ!」
護衛はそう言うと俺の背中を軽く叩き、リーダーに急かされてそそくさと任務に戻っていった。
「良い人ですねぇ。」
彼は俺の背を叩いた時、うっすらと笑みを浮かべていた。
思い違いでなければあれは何か企みが成功した時のような笑みだった。
「だと良いですけどね。」
じくじくと感じる違和感が背筋に残る。