大抵の括りは人による
そういえばとっくのとうちゃんに一年経ってましたわ。102話とか辺りです。時間が過ぎるのって早い。体感で言えば19歳が人生の半分らしいですよ。
「予定より早いですが、今晩砂丘を越えます。」
「今、なんと?」
客車に揺られている店主を見送りながら、隣にいる彼女に意向を伝えた。
驚いてこちらを向いた彼女を無視して、おおよその予測を話す。
店主に声をかけた日から約二日、段々と強くなる予感は背筋を刺激する感覚へと変化を迎えている。
「何となく、ですよ。今晩出ても精々ニアミス……入れ違いにはなるでしょうが。」
「名残惜しいですが、致し方ありません。今晩と言わず今から出ましょう。」
決断からの行動は早い。すぐに戻り荷物を纏めると部屋を引き払い、グラスコ砂丘側の門に向かった。
門では何やら衛兵達と行商人達で揉めている。曰く、砂丘に魔物が発生したらしい。
他の街から緊急で探索者を召集しているから待ってほしい衛兵側と、取引の不履行を気にする行商人側の意見が対立しているようだ。
「貴方ならどうにかできますか?」
「大抵の魔物なら。ただ、凄く目立ちます。」
「そう、ですか……」
前衛が居ない分面倒になるかもしれないが、どうとでもなるだろう。
「でしたらこれを。貴方にこれの予備を貸します。」
彼女が示したのは腰にぶら下げた姿を隠す魔術の刻まれた砂袋。砂袋型だからか昨晩もせっせと作っていた。
「はあ……貴女も行きますからね?」
「えっ?」
「当然でしょう、俺は一応護衛なんですから。対象が側にいなくてどうするんです。」
俺も腰に砂袋を着けると衛兵の横を抜けて、二人で砂丘の魔物がいるという場所に向かった。
幸いにもその魔物は大きく、しかし特に空を飛ぶことなく砂丘の砂で遊んでいた。
問題は本来この砂丘に、というよりこの大陸にいるはずのない魔物であったことだ。
「なぜここに飛竜が?」
「わ、ワイバーンですか?!」
翼が一体化した前足に、鰐のような顎、硬い鱗に覆われた飛竜。スタンダードながら島にいた個体よりも少し大きい。
「【装填】」
「何やっているんですか?!勝てるわけがありません、死んでしまいます!」
迷わず拳銃を取り出し、弾倉に銃弾を込めて照準を飛竜の眉間に向ける。
所詮復習にすぎないのだ、この身体が忘れる事はない。
「大丈夫です。」
「何がですか?!早く」
避難を促す彼女をよそに引き金を二度引く。
島にいた頃より改良が済んだ拳銃から、銃弾はほぼ直線的に飛竜の両目を貫く。
跳弾はしない。外側からの攻撃は殆ど無力化する鱗も、内側から穿たれればその堅牢さは見る影もない。
「GGYAAAA!!」
「【装填】【装填】【装填】【装填】【装填】【装填】、【射撃】」
視界を潰され咆哮する飛竜。装填先を空中に指定、大きく開いたその口へ一斉掃射する。
弾丸は銃口から放たれたものと遜色ない速度で口内へ到達し、後頭部に風穴を開けた。
「俺にとって飛竜は大抵の魔物です。」
振り向いてそう言うと、彼女は遠い目をしたまま呆然としていた。