第六感を侮ることなかれ
お久しぶりです、著者です。
最近は暑いですねぇ。梅雨が一ヶ月早く来たような感じで、とても蒸し暑いです。偏頭痛持ちの方はお気を付けて。ではでは。
「誘ったのは私供ですが、工房の方は大丈夫なのですか?」
「ええ、解雇を言い渡されたばかりなので時間は沢山ありますよ。」
「それなら今日は俺達と泊まるとして、そろそろフードと防砂布をとったらどうですか?」
付けっぱなしにしていたことを今気付いたのか、ハッとした顔で急いで服装を整え始めた。
「店主さんは大丈夫なんですか?」
「何がです?」
「何がって、男性でしょう?」
「失礼なっ、僕はれっきとした女の子ですよ!」
フードや防砂布を外套ごととった店主を見た彼女は、声にならないくらい小さく何事か呟く。
店主はおそらくカスパールの言っていた『僕っ娘』という属性なのだろう。
その属性の概念を知らない彼女が驚くのも無理はない。俺が勝手に勘違いしていただけで、彼女が分かる人ではなかったというだけだ。
「貴方をお呼びしたのは一つ作って欲しいものがあるからです。」
「このレンズですか?」
「はい。ただ、欲しいのはもっと小さくて何より無色透明なものですが。」
「な、なるほど?」
スコープに必要なレンズの形状やサイズ、必要個数を事細かにまとめた紙を渡すと、店主は暫くじっとオーダーを見つめたまま固まった。
数分後、漸く動いたかと思うと店主は荷物をまとめ始めた。
「こうしちゃいられません、早速作りに」
「解雇されても工房は使えるんですか?」
「そうだった……」
どうしようか悩んでいる店主を放置して、俺はギルドマスター宛の手紙を書く。
「店主、これを。」
「これは紹介状ですか?」
「傭兵のギルドマスターに持っていきなさい。探索者の方でも良いが、そっちは忙しそうだから。」
「商人とかじゃないんですか?」
「残念ながらそっちにツテはない。」
内容は、店主に工房の貸出を求める。ガラス細工は帝都ではきっと金になる。店主自身の技術力も力になる筈。というものだ。
店主には伝えないが、封筒の中には本人の作った眼鏡のレンズを五、六枚入れてある。これを見れば彼女なら有用だと気付く筈だ。
「それにしても凄いですね。ギルドマスターにツテがあるなんて。」
「ないぞ?」
「はい?」
「話したことはあるし、彼女の印象にも残っているだろうが、仲が良い訳でも直属の部下という訳でもないぞ?」
「えぇ?!」
だが、話は聞いてくれるという妙な確信はあった。こういう勘は【レイ】になってから強く働き、もうひとつ予感している事がある。
店主には悪いが、一刻も早く俺達から離れ帝都に向かって貰わなければならない。