夢中になる人を御すのは難しい
御無沙汰しております。著者です。
アニメ見て、原作読んでたらいつの間にか一週間以上空いてました。面目ねぇ。
GWもエンディングです。ダルいですねぇ。早くも五月病な著者でした。
少し固いベッドに腰掛けて、革の鞄に荷物を纏める彼女を見る。
受付の勘違いから同じ部屋にされてしまったが、護衛の観点からすれば合理的ではある。
そもそも、受付の勘違い以前に俺達が入る宿を間違えた、男子禁制の宿に来た事が悪かったのだから。
安全面からそこそこグレードの高い宿を探していた際に気付くべきだった。
妙に可愛らしい内装だった事、妙に出入りする人が女性しか居なかった事程度に目にはいらないとは護衛の風上にも置けない。
「ふふっ、いっそのことこのスカート穿いてみますか?」
「ハッ、冗談じゃない。」
裾を摘まみ上げる彼女の阿保な提案から話を逸らすように、気になっていた事を訊ねてみる。
「そう言えば、あの甲冑たちはもういらないんですか?」
「ん?ええ、あれの本体は甲冑の内側にある魔術式だからこの麻袋の内側に描いておけば、あれと同じものになるんですよ。甲冑自体は処分してもらいましたし、問題なしです。」
「なるほど。」
わざわざ甲冑にしていたのは、内側の砂を魔法で操り自衛する目的が主だと彼女は語る。
「さ、準備も終わりましたし行きますよ!」
「何処へ?」
「グラスコのガラスを扱う店全部へ、ですよ!ダミアン工房でしょ、ヘリクス細工でしょ、グレック硝子工房にあとあと」
「もう、いいです。とりあえず出ましょうか。」
はしゃぐ彼女を説得し、品揃えの良い幾つかのガラスを扱う店を廻った。
切子でいっぱいになった鞄を抱える彼女は幸せそうにしていたが、結局俺の目的は達せられなかった。
どの店も作業場の隣に店舗を構えており、一番腕の良い職人を訊ねても、うちの店が一番だと自負している様子だった。
「はぁ、やっぱり夕陽にあてられたグラスコガラス細工は良いですよね。ね!」
「……ええ、まあ、そうですね。」
「あ、そうだ!もう一つ行きたいお店があるんです、行って良いですか?後生ですので!」
「後生って貴女……はあ、夕食前ですから戻ります。」
「そんなぁ!」
落胆した表情の彼女を連れて宿へまっすぐ向かう帰り道に、その露店はあった。
店先は今まで廻ってきたどの店よりもみすぼらしく、商品は地面に乱雑に置かれていた。
本来ならガラス細工工房が乱立したこの街で修行中の人間が、作成に失敗したものを置いているようにしか見えなかっただろう。
だがそのほぼ同じものが並んだ店で目を惹いたのは、その商品の加工技術ではなく置かれた商品そのものの形状。
まるで、というかそのまんま眼鏡のレンズがグラスコのガラスになった、サングラスもどきだった。
「すみません、これを作った人はどなたですか?」
「お、貴方もこの美しさが分かるようになったのですか?!」
すべて全く同じ度のレンズなのはそれの作成に関する高い能力の裏返し。
「ぼ、僕です。買っていただけるのですか?」
フードを目深にかぶった店主は、レンズ越しに希望の眼差しを向けた。