何においても強化は大事
「転移魔術、って聞いた事ありますか?」
「いえ、無いですけど。それがどうかしたのですか?」
偽装死体とエリックの死体を土に埋めた後、日が出る前に俺達は目前にあったグラスコという街に入っていった。
「彼は何処かに連絡して今から帰投すると話していました。」
「あの、質問の意図がよくわからないのですが。」
「つまり、彼が帰投すると宣言した時間から追っ手の本隊に到着するのにタイムラグ、時間差が生じます。」
「なるほど。異変に気付くまで、そして気付いてからも時間が掛かり、その間は安全という事ですね!」
「そうです。もし、その時間差が生じないような、転移魔術のようなものがあるのならとも思ったのですが。」
それなりの地位に居た彼女が知らないのなら、その可能性は限り無くゼロに近い。
無論、何処かで仲間と落ち合うなどという予定があったとしても、少しの間次の追っ手が来るまで猶予がある。
「ということは観光が可能なのですね?!」
「距離は稼ぎたいですが、不可能ではないです。というより貴女、自分の立場を分かってます?」
「ええ、勿論よ。私、このグラスコにずっと来たかったの!」
どうやら立場などという煩わしいものは頭の中に無いらしい。
「グラスコの奥、エディン側にはグラスコ砂丘という地面が砂の丘があって、そこから取れた砂で作ったガラスはうっすら褐色になっていてお土産や芸術作品の域に達しています私も幼い頃に一度だけ見せていただいたのですがこんなにも綺麗なものを人間が作れるというのはもうものすごく」
「魅力は分かったから、一旦黙りましょうか。」
ハッとした表情を浮かべる彼女は、そう言われてはじめて自分が興奮していることに気が付いた。
「ゴホッ、ゴホッ……咳が突然。まさかもう追っ手が来て」
「いや、ただ単に早口で呼吸を忘れてただけでしょう。」
その一言が決め手となり彼女は顔を手で覆いしゃがんで動かなくなってしまった。
紅く染まった耳がその羞恥を物語っている。
「そんなに長くは滞在できませんが、まずは宿を取りましょう。」
背中を優しく叩いてそう告げると滞在中の予定を考え始める。
今までは【錬金術】でどうにかできるガラスの加工しかできず、照準器もハリボテ状況だった。
だがここでガラスの加工技術を得る、もしくは技術者とのコンタクトが取れれば射程距離は大幅に変わる。
この世界の人間は総じて基礎身体能力が高い傾向にある。視力などはエリックが良い例だ。
しかし、光学照準器による視力強化があれば一方的な狙撃も可能になる。敵へわざわざ近付くような愚行を働かずに済む。
今日の戦闘、この街の特産により浮き彫りとなった。
【レイ】の装備の近代化は急務である。