ブラフ、トラップ、ド三流
カシャンと音を立てて甲冑の首が宙を舞う。
兜は地に落ちる事なく、こめかみに直撃した矢によって木に縫い留められた。
がらんどうの操り人形である為、人的被害は被っていない。
しかし、甲冑が倒れたことにより魔術は解かれ、間も無く二つ並んだ寝袋に大量の矢の雨が降り注ぐ。
無差別に訪れるどしゃ降りの矢で寝袋が跳ね、地面が抉られ土煙が舞う。
にもかかわらず、尚も断続的に降り注ぐ雨は更に寝袋を貫き地面に赤いシミを広げた。
雨が止んだ頃には、残された周囲の甲冑はその尽くが人型を留められず部品が散乱し、粉々になった背嚢も枕元で赤く濡れている。
俺は林の暗がりから、恐る恐る見るも無惨な亡骸を確認する。
砕け散った肉片は見えるが、上腕に取り付けたボウガンで最期に一発ずつ矢を放つ。
「反応無し。対象の明確な死亡を確認。これより帰投する。」
配給された魔道具に結果の報告を済ませると、使用済みで砕けた魔道具を呑み込んで現場を後にする。
彼らだったモノはきっとこの辺りにいる獣が食らうだろう。
そう思い踏み出した足が何かを踏みつけた。
弾けとんだ肉片は広範囲に飛び散っていることも多く、今回もそれだろうと足の下を見て疑問符が浮かぶ。
それは白く尖った小さい何かだった。
骨の破片にしては鋭利さに欠けるし、たとえ破片だったとしても白すぎる。
よく観察すればそれが骨では無いことに見当がつく。
少し小さいがこれは歯だ。
それも人間の犬歯ではなく、もっと魔物の持つ乱杭歯のような。
まさかと己の失敗に気が付いた頃にはもう時既に遅し。
「尻尾を出すのが早すぎだ、馬鹿者。」
そう声が聞こえたかと思うと頸に重い一撃が走る。
頸椎が砕ける音を聞きながら、視線をさ迷わせその声の主を見つけた。
彼は俺に何かを突きつけると最後に一言、
「三流狙撃手が。」
声は同時に鳴った爆発音に掻き消され聞こえることはなかった。
俺は彼女の追っ手を始末すると、少し遠くの岩陰に身を潜めていた彼女が此方へやって来た。
寝袋には小鬼王討伐にあたって数日分まで貯めていた肉類と、小鬼達の歯や骨などをある程度人形に見えるように詰めていた。
まさか本当に騙せるとは思っていなかったが、騙されかけていたところを見るにやはり彼は三流なのだろう。
「エリック、まさか貴方まで……」
「知り合いですか?」
「ええ、昔よく遊んでもらいました。でも何で貴方が……」
「貴女が暮らしていた世界とは、そういうものなのでしょう?」
「そうですけど、それとこれとは」
「だったら慣れた方が良い。心を殺せば一々傷付かなくて済む。」
「っ……ええ。そう、ですね。分かってます。」
消極的に過ぎるが少なくとも俺にとってはそれが最適解だった。
最適解だったのだ。俺は自分自身にそう言い聞かせた。