自分らしいかどうかは自分が決める事ではないかもしれない
更に二年半の月日が経った。
五歳の時、窓の無い小屋の外に初めて出てみた。
すると、ここの気候はとても面白い事に気付く。
流れる風は季節によって方向が変わり、四季折々の表情を見せる。
春夏は東の三日月型の山脈に嵐雲がぶつかるお陰で暖かく乾燥している。
秋冬は西の潮風が雨雲を運び寒空がそれを雪へと変え湿潤し寒さが増す。
ただの子供を育てるには精神衛生上かつ成育上非常に最適な立地だ。
……それも人が自分を含めて二人しかいない事を除けばだが。
「【探知】……割と有るな。【製錬】」
そして六歳となった今、快適に暮らせるように鉄を錬金術で探している。
理由は簡単な事だ。産まれてこの方一度も切っていないこの長髪を、切るために鋏が欲しいからだ。
前も後ろも無く髪が膝の辺りまで伸びている。
試しに髪の先に重りをその場で回ると遊園地の回転ブランコのようだった。
「少し多かったか?まあ、あって困る事は無いだろ。【形成】」
【製錬】で出てきた様々な形の鉄塊を、【形成】でリーラの手に合うサイズの鋏を形作る。
余った鉄は筋トレ用に幾つか重さを変えて鉄球を作った。
「出来たか?」
「ああ。リーラ、頼む。」
「うむ。この大精霊リーラ様に任せなさい!」
自信満々に薄い胸を張り、リーラは俺の髪を切り始める。
久し振りに感じる髪を切る音にリラックスして瞼が重くなってくる。
「眠いのか?切り終えたら起こすぞ?」
「そうか、じゃあ遠慮無く。」
「まあ、レイはいつも遠慮など無いがな。」
「レイ~、起きろ~」
「ん。ありがとう、リー……ラ?」
「フフフ、どうだ。自信作だ!」
目の前にある鏡を見て俺は驚愕した。
あんなに伸び放題だった髪があんなに短く、という訳ではない。
前髪は切ってはあるがまだまだ長く、それを左右に分けているだけ。
まさかと思い後ろを見てみると赤い紐でポニーテールに縛っているだけ。
恐らく長さは解いたら肩甲骨の辺りまで伸びるだろうか。
「なあ、俺は髪を切ってくれって言ったんだが。」
「フフ、一番可愛い長さと髪型にしてみたぞ?」
「はぁ……リーラが良いならもうそれでいい。」
「フフフ、愛らしいなぁ。」
俺の髪を手櫛で梳いたり、ずっと頭を撫でてくる。
商売じゃないんだ、切って貰っておいて文句は言えない。
「可愛いなあ。レイも嬉しいだろう?」
「可愛いと思うことはリーラの感性だから否定はしないが、俺は嬉しくは無いぞ?」
「レイは髪が長い方が似合いそうだからな。」
「会話が噛み合わない……」
しかしリーラのふやけたような笑みを鏡越しに見ていると、これも有りかと思える。
リーラが良いならこれでも良いか。そう思った。