人は死ぬと分かると体裁なんて関係ない
毎回ライトめに書く予定です。ライトと言っても、LightでもRightでもなくLiteですよ。Lightは若干近いものではありますけどね。
毎日投稿は無理なので、ブクマ登録で投稿を確認して戴けると著者的にも良きかな。
他にも一つ(2020年4月13日現在)連載しておりますので、何卒、何卒宜しく御願い致します。
「しゅ、出房です、出なさい。」
鉄格子の向こう側から声をかけられる。
やっとこの時が来たと思うと妙に感慨深い。
立ち上がって顔をあげると昨日まで居た男とは違う、制服姿の女がそこに立っていた。
心持ちが楽になった事も影響してかいつもより周りがよく見える。
俺を見て肩が震えているあたりまだ慣れていないのだろう。果たしてそれは仕事かそれとも俺のような人間にか。
「……初仕事、ですか?」
「え?」
昔飼っていた痣だらけの子犬に重なって柄にもなく声を掛けてしまった。
久し振り過ぎてちゃんと声が出ているか怪しい。
しかし、彼女が聞き返したのは聞き取り辛かった訳では無いだろう。
「初、仕事、ですか。」
「え、ええ。──喋れるんだ」
隣も向かいも皆騒がしい中、俺が話しているところを見た人が居ないからだろう。
入ってから出るまでに殆ど時間が経過していない異例の事態。
彼が俺をどれほど疎ましかったのかはそれを考えれば想像に易い。
彼女に指示されて廊下を歩く。今の時間帯は皆思い思いの過ごし方をしており、聞こえるのは磨かれた床に当たる固い靴の音だけ。
目的地へ到着すると扉を開け待っているのは、神父と他の制服達との会話だ。
厳密には神父とは異なるらしいがこの期に及んでどうでもいいことだ。
いつものように会釈をして、尋ねられる事に一つ一つ答えていく上で一つ此方から尋ねた。
「家に居た犬は、どう、なりましたか。」
「大家が飼ってくれているらしいが、あの大家も年だ、直ぐにでも保護されるだろうよ。」
「そう、ですか。」
あの大家は掃除をしない。呼吸器系の病気に罹っているあいつには辛いに違いない。
きっと今頃は俺よりも先に逝っているだろう。
教誨室を出るとまた一つ奥の部屋へ連れられる。
入って左手にはカーテンで区切られており、部屋の奥には宗教的な絵が貼ってある。
「これより、明日暮飛雄の刑の執行を開始する。」
ネームプレートに所長とある男の掛け声によって、目隠しと手錠が掛けられる。
「あの、一つ良いですか?」
「……まあ、構わないか。なんだ?」
「連れてきてくれた、女性をお願いします。男性には聞かれたくない事でしょうし、このままで良いのでお願いします。」
もう死ぬのだ、最期ぐらい我が儘を言っても良いだろう。
視界が真っ暗闇の中扉の開く音が聞こえる。事情を話した所長達は出て行った……と、思う。
「あの、何でしょ……何ですか?」
「脹ら脛、手首、吉川線。それらはそういう趣向が好きでできた痣ですか?」
「えっと、これはその」
「そうでないなら別れたほうが良い。彼かあなたか、どちらかが此方側へ来る事になりますよ。」
若干ざわめいた室内。所長らは出て行かなかったのか。
咳払いした所長に促されカーテンの奥へと進む。
首元に触れるガサついた縄の感触。
後ろの扉が開かれ何人かが出て行く音がする。
足下の支えがなくなり全身が首を支えに宙ぶらりんになる。
睡魔に襲われた時のように意識が遠のいていこうとする。
ふと視界が突然開け光が差し込む。
目隠しが何の因果か外れてしまったようだ。
死に逝く己への忌避感も恐怖感もない。
枯れ葉のように落ち始めた目隠しを眺めつつ、視界は再度暗転し、俺の人生は一つ幕を閉じた。
正直な所、もう一方の展開を進めるのに詰まったら書いていくので更新ペースは気長にお待ち下さい。そんなにエタらないとは思いますがね。
(……まあ、それならそれで別の問題が発生しますけども。)