4.魔書と聖書
「……俺と共に行くというのなら、いろいろと説明しないといけないことがある」
そう言って、アロンはカバンの中から一冊の本を取り出した。
「お前は“魔書”というものを知っているか?」
「魔書?その本のことか?」
「そうだ。この本は悪魔と契約したものの証。つまり、禁忌を犯した者が持つものだ」
そう言ってアロンは話し始めた。
アロン曰く、“魔書“とはある日突然レオノーラ大陸にその存在を広く知られるようになった不思議な書物のうちの一つで対価を払うことによって力を手に入れることのできる代物である。
また、似たように持ち主に力を与える書物として“聖書”というものがある。
この二種類の書物には決定的な違いがあった。
聖書は魔書と違い持ち主に対価を求めずに力を与えるのだ。
また、魔書はある時忽然とどこかに現れその本を手に持ち、対価を払うことができる者ならだれでも力を手にすることができるのに比べ聖書は持ち主を選ぶ。
聖書は持ち主と決めた者の近くに現れ、その者にしか使うことはおろか触ることもできない。
それゆえこの大陸では聖書は聖なるものとして崇められており、逆に魔書は邪なるものとして忌み嫌われている。
「特に俺の育った国は魔書を極端に嫌っている。魔書持ちを徹底的に殲滅しようとするくらいにな」
「ああ、それでお前はその国の奴らにやられて死にかけていたのか」
「そうだ。そして、俺を追いかけてくる奴らは魔書狩りを専門とする部隊だ」
「部隊?国にそんな専門の機関みたいなのがあるのか?」
「ああ。魔書は燃やそうとしても燃えないし、破こうとしても破けない。傷をつけることができないんだ。だけど、聖書持ちの奴らだけは魔書を破壊することができる」
「なるほど。聖書ってのを持ってる奴らの部隊に追われてるってわけか。大変だな」
「それは仕方ない。俺もあいつらに用があってちょっかいをかけたりしてるからな。それもあってあいつらにとって俺は一番に排除したい魔書持ちになっている」
「ふーん……。どっちも俺からしたら大して変わらないけどな」
リヒトはそれにどんなものにでも対価は存在するはずだけどな……と呟いた。
「そうか?お前は変わったやつだな」
「いや、そうでもないだろ」
アロンはいや、変わってるよと笑みをこぼすとリヒトに向き直る。
ノアはいつの間にかリヒトの膝で丸くなって眠っている。
「さて、それでもお前は俺と共に行動するのか?」
「俺はその話を聞いてむしろお前ともっと行動を共にしたいと思ったけどな」
それに独りは寂しいだろ?とリヒトはにっと笑った。